心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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心不全のすべて(50-2:心不全に必要な腎臓の知識、糸球体ろ過量の測り方)

 

腎臓の機能において、糸球体濾過量は非常に重要な指標であり、また、これは心不全においても重要です。

 

糸球体濾過量は、腎臓の長い毛細血管の毛玉である糸球体において、圧力濾過される血液の血漿の量です。

 

これを測定する方法についてのお話です。

まず、血液の中に2つの条件がそろっている物質Aがあれば、それの血液濃度と、ある時間当たりの尿中の排泄量を測定すれば、ある時間当たりに濾過された血漿の量がわかります。

 

たとえば、コーヒーの濾過量を調べるとします。

ほぼ全量濾過されると思いますが、荒い豆の残りやフィルターについて濾過されなかったコーヒーがあるはずですので、それを除いたろ過フィルターを通過したコーヒーの量をどうすれば計算できるかということです。

 

コーヒーを濾過して、カップの中に190mlのコーヒーができていれば、濾過量は190mlです。

もし、原尿の量を直接測定できれば、ここで話は終わりです。

カップのコーヒーの量をはかればいいように、直接原尿をはかれば、それが糸球体ろ過量です。しかし、そんなことはできません。

 

もう少し例えを続けます。

 たとえば1日後のコーヒーの量からろ過した直後のコーヒーの量が推定できるでしょうか。推定できるならどうしたらできるのでしょうか。

 

1日後のコーヒーは、水分は蒸発していますので、カップのなかにコーヒーが50mlしかないとします。

この時にどのようにすれば濾過量の190mlを求められでしょうか。

(ちなみに原尿が濾過直後のカップの中のコーヒーの量で、最終の膀胱にある尿が1日後のコーヒーの量と例えています。つまり、最終の尿からどのようにしてろ過された直後の原尿の量(=血漿量)をはかれるかということです)

 

コーヒーの中に含まれるカフェインの濃度を測定するとそれが可能になります。

しかし、カフェインに、二つの特徴がなければ、いけません。

 

まず一つ目の条件は、カフェインが水と同じように自由にろ過されることです。

水とカフェインが同じようにろ過されるとすると、ろ過前(血管内の血漿濃度)とろ過直後(原尿)のコーヒーに含まれるカフェインの濃度は同じになります。

 

すると、ろ過直後のコーヒーの量(原尿)を、1日後のカップの中のコーヒーにカフェインの量(最終の尿)から計算することができまるようになります。

 

つまり、腎臓でも、水と同じように糸球体を構成する毛細血管から濾過されるというのが物質Aの条件の一つになります。

 

 

次に大事なのが、コーヒーを1日経ってから計るとしたときに、この1日の間に、カフェインが追加されたり、蒸発しないということが重要です。

誰かが親切心でちょいとカフェインを追加したり、もし、カフェインが水と同じように蒸発するような性質があってしまうと、1日経ったときのコーヒーのカフェインの量は、濾過された直後のカフェインの量と異なるため、190mlという濾過されたコーヒー量を推定できなくなります。

つまり、水は蒸発して、濃度が変わったとしても、ろ過直後と1日後でカフェインの量が変わってはいけないということです。

 

この蒸発させたり追加させたりする機能を尿細管と集合管がもっています。

 

原尿は尿細管や集合管という腎臓内の管を通って、最終的な尿となります。最終的な尿は腎臓の出口である腎盂に集まり、そこから膀胱へと流れます。腎盂から先の尿は成分的に変わりはありません。

 

しかし、尿細管では、水や電解質を始めとしたさまざまな物質が再度体に吸収されたり、逆に尿内に分泌し追加されたりしています。この影響をうけないことが重要になります。

ちなみに水は約99%が再吸収されるため、原尿からすると最終尿は1%程度ということになります。コーヒーであれば、ほとんど蒸発したかなり濃い状態となります。

 

ここで、1日経過した濃いコーヒーから、ろ過直後の量を求めるには、カフェインが1日の中で、追加もされず蒸発もしないことが条件となります。

つまり、尿細管や集合管から分泌も再吸収もされないことが、物質Aの第2の条件となります。

 

 

物質Aの2つの条件は、糸球体から水と同じように濾過されること、尿細管や集合管から分泌や再吸収されないことが条件となります。

この条件を満たしていれば、普通に採取できる尿中の物質Aの量と血中の物質Aの濃度から、濾過された血漿量を求めることができます。つまり、糸球体ろ過量を求めることができます。

 

 

さらに具体的にいうと、物質Aが上記の2つの条件を満たしていれば、原尿(=濾過された直後の血漿)の物質Aの濃度と、排泄された物質Aの総量から、原尿の量(=濾過された血漿量)を計算することができます。

Aは、水と同じ透過性を持っているので、普通に血液検査で測定できるAの血漿濃度とろ過直後の血漿濃度は同じですので、原尿の濃度は、血液検査で測定できますし(Aの濃度:血漿=原尿)、尿量とその中のAの濃度は畜尿により簡単に測定できるので、尿中のAの総量も容易に測定できます。

 

つまり、

糸球体ろ過量×原尿のAの濃度=尿量×尿中のAの濃度

糸球体ろ過量=尿量×尿中のAの濃度÷原尿のAの濃度

糸球体ろ過量=尿量×尿中のAの濃度÷血漿のAの濃度

で、求めることができます。

 

 

この物質Aにもっとも近いのがイヌリンという物質になります。

 

もっとも正確に腎臓の糸球体濾過量を測定しようとすると、このイヌリンを注射して、血液(ただしくは血漿)のイヌリン濃度とある時間あたりのイヌリンの尿中排泄総量がわかれば、原尿の量、つまり、その時間あたりの濾過された血漿の総量がわかります。

一般的には、2時間程度の検査により測定するようです。

 

 

一般的には、1分あたりの量として表現しますので、1日あたりの量を、24時間でわり、さらに60分でわることで、1分あたりの濾過された血漿量を求めます。これが糸球体濾過量、GFRとなります。

 

通常、糸球体濾過量は60-90ml/分となります。

原尿としては、1時間当たりだいたい4-5L程度ということになりますので、もし、原尿がそのまま尿細管や集合管で水分を再吸収されずにそのままでれば、大変なことになります。巨大な膀胱が必要になりますね。

 

 

また、いわゆる血液透析が必要になるような人は糸球体が高度に障害を受けていて、この濾過による原尿が作成できなくなっています。

少し自尿がある人では、GFR 15ml/分程度で、長期透析の方では、クレアチニンという値で測定した時には、GFR 5-10ml/分程度となります。後でお話ししますが、クレアチニンは尿細管から少し分泌されますので、原尿の量をすこし過大評価しますので、実質的には、ほぼ0ml/分程度だと思われます。