頻脈性不整脈は、慢性的な心不全の原因にもなりえますし、慢性心不全の急性増悪の原因にもなります。
心房細動や心房粗動、心房頻拍があると拡張型心筋症となることがあります。
機序はよくわかっていません。
頻拍誘発性心不全という概念もありますが、それほど心拍数が早くない、心拍数だけでみれば頻拍ではなくても心筋症のなることがあります。
これも高血圧や糖尿病のように、心房からの脈の不整により心筋の収縮性が低下し、拡張型心筋症のようになると思われます。
すこし、話がそれますが、心房機能について話をします。
心房の機能は、心室の拡張末期圧を低く保つことです。
左心系でみていきます。
左室の収縮から拡張への移行は、左室の心筋が柔らかくなり、それより左室の圧が上流にある心房の圧よりも低くなることで、左房から左室への血液の移動が起きることによります。
左室は拡張しようとしているのではなく、柔らかくなって血液を受け入れているイメージ
もし、左室が積極的に拡張するなら圧は陰圧になります。実は、この陰圧は拡張期のごく初期にはみられます。心臓はねじれながら収縮するのですが、いい心臓はおもいっきりねじりながら収縮します。すると、その反発で収縮しきった、ぎゅっとした状態から、一気にバーンと反発が起きて拡張します。この心筋の収縮からの反発により心室は一過性に陰圧になって、一気に心房から血液を吸引します。この時は、心室は積極的に拡張しているといえます。
さて、左房から左室に血液の流入がおきても左室が柔らかくなり続けている間は圧は上がりませんが、それが停止すると左室への血液の流入とともに圧が上がっていきます。
しかし、心房の収縮刺激(洞結節の刺激)が生じると、左室の拡張末期圧は、左室が拡張することだけによる上昇分よりも、心房収縮することで勢いよく左室が拡張するほうが、同じ心筋で同じ容積でも、圧力が低くなります。これは、心筋自体にも粘性があって、ゆっくりと容積が増えるよりも、容積ががっとあがるほうが粘性の影響を受けないため、圧が上がりにくいとされています。
現に、心房収縮による容積の増加時にも、左室の圧の上昇は抑えられています。
このように心房の本来の働きは、拡張末期圧を上げないことにあります。
心房細動になると心房は収縮も拡張もしなくなります。
心房粗動や心房頻拍は、さらにこまったことに多少収縮します。しかし、この収縮は、心室の拡張末期におこるわけではなく、好き勝手なタイミングで起こります。そのため、心室の収縮期にも起こります。
頻拍のため十分ではないとしても、心室の収縮期に心房が収縮すると心房に貯められていた血液は、左室なら肺静脈、右室なら大静脈へと帰ってしまい、静脈系と心房間の不効率きまわりない血行動態となります。
多くの心臓では、よほど頻拍にならない限り心房細動、心房粗動、心房頻拍になっても動悸を感じる程度で不全心になったり、心不全になったりすることはありません。
しかし、一部の人の心臓では、これらにより、慢性的な不全心となることがあります。
右・左両室に収縮不全と拡張をみることがおおいとされています。
しかし、それ以外のこれといった特徴はありません。
診断するには、電気的除細動やカテーテルアブレーションで、不整脈を止めて、止めた後に心機能が改善するかどうかを見るしかありません。
また、心房頻拍は心房240回/分、2回に1回の心房から心室への伝導して、心室が120回/分程度のものは、見逃されやすいので注意が必要です。
心不全では、特に急性期には洞調律で心拍数120程度ということはよくありますので、心房頻拍であることを見落とすと治療はうまくいかないことが多いです。
不全心をみて、心房細動とか心房粗動はすぐにわかると思いますが、かならず心房頻拍かどうかは意識してみてください。
心房頻拍を合併した不全心が一番不整脈治療後に心機能が良くなる印象があります。
また、心房頻拍や心房粗動を止めるときに、もし、カテーテルアブレーションで正常伝導路を傷つける可能性があっても、その不整脈を治すべきと判断したら、躊躇せず、不整脈を止めに行ってください。