(この項目は、少し悩ましく、修正する可能性がありますので注意ください)
そもそもの心不全となる原因をみていきます。慢性心不全の原因です。
上気道感染や一時的な不整脈などの、慢性心不全が不安定になって急性増悪となるような「慢性心不全の非代償化の原因」とは異なります。
そもそもの心機能が低下する原因ですが、いろいろな視点によって分けることができると思います。
今回は、心不全の原因となる異常がどこに生じているか、どこの異常によって心不全となっているのかによって分けてみたいと思います。
また、その次に、実際に臨床をするうえで重要な視点だと思われる予防可能なものと、根本的な治療が可能なものという点でも分類していきたいと思います。
心不全の原因となる異常が、どのレベルにあって心不全になっているのかによって分けてみたいと思います。
分けるのに最も小さい部分、心臓の中の心筋組織の中の心筋細胞の異常から、すこしずつ大きくとらえていくような感じにしていきます。
(心筋組織は、内膜・外膜、また、その間になる筋層の心筋細胞と間質組織からなるとします)
また、それぞれの中には、原因が心臓側に由来するものと、心臓以外の原因によって心臓が障害されている場合があります。
具体的には、心筋そのものに由来するということは、心筋の遺伝子からたんぱくとして機能できるまでの過程に何らかの異常をもともと有しているということを想定します。
また、心臓以外の原因ということは、薬剤や感染、動脈硬化性変化、持続的な後負荷による心臓の変化をはじめ、ホルモン異常(ホルモン異常自体は先天的なものであったとしても)、アミロイドの沈着、サルコイドーシスなどの後天的なすべての因子を含みます。
また、弁と冠動脈を心筋組織とは別に考えます。
① 心臓の心筋細胞の一つ一つの機能の問題として、心筋細胞自体に異常があるもの。
外的な要因による心筋細胞の障害は含まない(心筋炎や冠動脈疾患など)。
これには、拡張収縮に関係する機構(トロポニン、リアノジン受容体やタイチンなど)に異常があると考えられるものだけでなく、CD36などのエネルギーの取り込みやエネルギー利用などに関する障害も含む。
要するに、心筋細胞として、細胞を維持して、正常に機能するということが、心筋細胞レベルでの異常でできなくなっていることを原因とします。
例:拡張型心筋症、肥大型心筋症、拘束型心筋症、不整脈原性心筋症、CD36欠損症など
薬剤:ハーセプチンなどによる一時的な薬剤性心筋症はこちらに含まれると考えます
② 心筋細胞自体は正常である(あった)が、何らかの原因で間質を含む心筋組織に何らかの変化があり、その変化により心筋組織機能が障害されているもの。
心内膜や外膜、間質組織(心筋ストローマなど)の異常など
先天的:心内膜弾性繊維症、緻密化障害など
後天的:アミロイドーシス、収縮性心外膜炎など
③ おそらく心筋細胞の一つ一つは正常に機能している(いた)と考えられるが、心筋細胞の数が減少しているもの。
陳旧性心筋梗塞、慢性心筋炎、サルコイドーシス、免疫性疾患など
薬剤:アドリアマイシンは、心筋細胞障害によると考えられるため、こちらに含まれると考えられます
④ 心臓の筋組織は異常はない(なかった)が、心臓の構造的な異常により心不全となっているもの
弁膜症、先天的な短絡性疾患など
⑤ 心筋組織の障害は、軽度であるが、血流の障害による機能低下状態。
タコつぼ型心筋症、冠動脈の高度多枝狭窄による虚血状態など
⑥ 不整脈・伝導障害を原因とする心機能低下
頻拍誘発性心筋症(心房性頻拍や心房粗動・細動、多発する心室性期外収縮など)など
(徐脈は急性増悪の原因ではありますが、慢性心不全の原因とはならないと考えます)
ペースマーカ留置後の右室ペースや左脚ブロックによる心機能低下
⑦ 心臓は基本悪くないが、全身の酸素需要が著しく増加している状態が続いたために、心筋細胞レベルで心機能が低下した状態
重度貧血、高度な動静脈シャント、脚気など
もちろん、①から⑦の状態を重複しているものもあります。
特に、陳旧性心筋梗塞や免疫性疾患などでは、心筋細胞の機能低下と心筋細胞障害による数の減少を同時におこすことも多々あると思います。
それらを承知の上、病態的に考えて、今回は敢えてどちらかにわけてみました。
時間経過も大事で、生まれつき心筋の筋組織に異常があり新生児から小児期に心不全を発症するもの、若年の頃は全く正常であったと思われていたものが、経年的にある時点より突然、もしくは徐々に心機能低下を起こしてくるものもあります。