心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

心不全のすべて(45:不全心・不整脈の原因としての筋ジストロフィー)

筋ジストロフィーといって、筋肉自体の遺伝子疾患に伴う拡張型心筋症もしばしばみられます。

  

筋ジストロフィーは、遺伝子異常による疾患です。

横紋筋や心筋、平滑筋などの筋肉が、壊死をきたし、筋肉不足、筋力低下となり、さまざまな障害をきたす疾患です。

どのような部位の筋肉がどのような異常を示すかによって、デシャンヌ型とか、筋緊張型などといって分類されています。また、最近はそれに加えて、遺伝子診断が進んだため、原因遺伝子によって疾患が分けられるようになっています。

同一遺伝子異常でも表現型が異なったり、同じ表現型でも遺伝子異常はことなったりついうことがあり、さらに遺伝子と表現型の間にあるたんぱく機能解析なども今後は必要と思われます。

 

 不全心となるさまざまな全身疾患でいえることですが、この筋ジストロフィーも循環器医では診断できません。診断はできませんが、疑うこと、全身の診察・家族歴の聴取などの内科としての基本が求められます。

  

専門的な疾患ですので、診断を確定できる医師も限られるようです。私も以前かなり診断に悩む患者さんを国立精神・神経センター研究所の先生にお世話になり、診断していただいた経験があります。

 
小児科医以外が心不全としてみる可能性があるのは、ベッカー型筋ジストロフィーだと思います。ベッカー型は、デシャンヌ型の緩徐進行型のようで、関節の症状もないとのことです。

デシャンヌやベッカーはジストロフィンという、細胞内の細胞質と細胞膜、細胞を囲む基底膜などとつながっていて、電解質などを通じた情報伝達にかかわっています。一部の報告では、カルシウムの流入が過剰となり、その刺激によって最終的に筋細胞の壊死を招いているとのことです。

また、ベッカー型の場合には、ジストロフィンは、部分的に機能しているので、デシャンヌ型に比べて、症状の進行が遅かったり、限定的であったりすると考えられています。

 

ベッカー型ジストロフィーの症状は、近位筋といって、体の中枢の筋肉の筋力が低下していきます。具体的には腰帯筋、次第に大殿筋、肩甲帯筋へと筋力の低下の範囲が広がっていきます。筋力低下は対称的に起きるという特徴があるとのことです。

私が見た患者さんも、すべてベッカー型でした。筋力低下のため、歩行困難なども伴い、栄養状態も筋力の低下のためか、同程度の重要度の心不全の方と比べても悪く、リハビリなどが進みにくかったです。

  

ジストロフィー自体の病気の原因は、かなり解明されています。

異常のある遺伝子によって、ジストロフィン以外にも細胞膜や核膜などに関係するたんぱくの異常があります。ただ、原因にかかわらず筋肉が壊死してしまうという共通の表現型をとるので、臨床上は筋ジストロフィーとしてまとめることができます。

心臓以外の筋肉は基本的に再生されますが、その破壊速度の速さにより進行の速さなどが異なるようです。

  

 

また、ベッカー型だけではなく、エメリー・ドライフス型という型では、房室ブロックを中心とした不整脈が良くみられるようですので、心不全、不整脈(特にペースメーカ留置例など)に関しては、2次性の疾患の可能性は常に考慮する必要があります。この疾患の場合には、ジストロフィン異常とは異なり、肩から上肢および下腿の筋力低下が特徴のようです。

  

ジストロフィーは、厚生労働省の難病に指定されています。

最近、デシャンヌ型筋ジストロフィーに対して、ステロイド投与が有効で、投与が行われていたり、遺伝子(DNA)がRNAに転写されるときの、特徴的な異常を利用し、あえて、ある部分の遺伝子を欠損させて、やや機能が低下しているものの、ジストロフィンを発現させる試みなどが行われている(デシャンヌをベッカーにするイメージ)。