心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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スターリング曲線を使うと、心不全の右房圧と心拍出量の関係が理解しやすくなる

フランク・スターリングの法則は、原理原則としては重要です。ただ、実際に見かけるのはほとんどがスターリング曲線です。
スターリング曲線のほうが、実際の臨床でみる心不全の理解には役に立つと思います。
それは、スターリング曲線が、前負荷と心拍出量の関係を説明するのに適しているからです。
というのも、重症の心不全でない多くの心不全は、循環不全(心拍出量が関係)を気にしながら、右房圧を下げる(利尿薬±静脈系血管拡張薬)ということが治療の中心になりますので、右房圧と心拍出量の関係を示した​スターリングの曲線は多くの心不全の理解に役立ちます。ただ、心不全も重症になればなるほど、抵抗血管の拡張という要素が重要になりますので、圧容積関係図(Pressure Volume loop)のほうが説明には適してきます。圧容積関係はまた別にお話しします。
(肺動脈楔入圧≒左房圧は意識する必要がありますが、治療介入するのはほとんどの場合右房圧になります。)

スターリング曲線の図の中での曲線の位置や曲がり具合が、心臓の機能(収縮・拡張)と血管抵抗によって決まります。ただ、血管抵抗に関しては、圧容積関係を用いて考えたほうがいいと思います(圧と抵抗の関係を同時にみる必要性があるかと思います)。
複数の心機能を並べて、複数の曲線を比較することで、心機能、特に静脈圧(→前負荷)と心拍出量を理解することができるようになります。​​
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まず、スターリング曲線は、横軸は臨床で測定可能な平均右房圧、縦軸を心拍出量としています。
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平均右房圧は右室拡張末期圧とほぼ同じです。右室拡張末期圧は、右室の拡張機能と収縮性、肺血管抵抗、1回拍出量によって規定されます。​​
スターリング曲線では、同じ曲線では心機能と血管抵抗は一定と定義しますので、ある機能を持った同じ抵抗にさらされている心臓の前負荷と心拍出量の変化を1本の曲線であらわしたということになります。
(右心拍出量と左心拍出量の差は、臨床的には誤差の範囲ですので、同じとしています。右心機能が悪い時には心拍出量が右心が規定して、左心機能が悪い時には心拍出量は左心が規定しますが、同じ量になります。このあたりを表現しているのが、いわゆる拡張Guytonモデルですので、これもGuytonモデルとともにお話しします。​​)

 

さて、まず、横軸を右房圧、縦軸を心拍出量にすると、下のような図になります。

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心機能が悪くなると、この曲線は下方向(右下方向)に移動します。つまり、前負荷当たりの心拍出量が少なくなります。

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もちろん、実際には心拍出量はそれなりの重症心不全でなければ安静時には体が求めるだけ供給されます。
つまり、これは同じ心拍出量を供給するのに高い心房圧が必要ということを意味します。
(正確には高い心房圧→大きな心室拡張末期容積→心拍出量は同じ→大きな心室収縮末期容積になっているいうことですが)

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また、心機能が何らかの理由(広範な心筋梗塞や心筋炎)で低下したときには、突然曲線は下方向へ移動します。
この時に、生体は、交感神経などを通じて、心機能を上げようとしますが、弱った心筋には通じず、心機能は著しく低下します。
そのために、同じ心拍出量を維持するためには、心房圧を上げる方向へ体は体液を調整します。この時に、交感神経やレニンアギオテンシン系、バソプレシン系が活性化し、尿を減らしたり、脾臓や肝臓の静脈が収縮することで、プーリング血液を循環に関与させるようにし、前負荷を上げます。
この結果として、心拍出量は維持される方向には向きますが、右房圧ならびに左房圧が上昇するため、肺うっ血・体うっ血が悪化します。

 

 

 

このようにスターリング曲線は、急性心不全の悪化の経過を臨床と合わせて、説明することが可能となります。

また、心不全の急性増悪も一部は説明可能で、同じように循環血液量が足りないと生体が判断した(正しく反応したかどうかは別として)時に、同様の反応により、尿が減り、前負荷を増やすために、循環血液量が増加し、うっ血が起こります。

意外に、生体が循環血流量が不足していると間違って判断して起こる心不全も一定あると思われます。

 

治療として、強心薬を使うと曲線は上方向(左上)へ動きます。つまり、同じ前負荷でも多くの血液を循環させることができます。そのため、強心薬を使用して、循環を維持する余力を作り、利尿薬により心房圧を下げていく治療が心不全に有効であるということが理解しやすくなります。

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また、無駄な循環血液量を利尿としてだし、イメージとしてですが腹腔内のリザーブ血に戻したら、要は、うっ血のない適切な水分量にできれば、同じ心房圧でも循環を維持しやすくなります。おそらく、呼吸など、いろんなところでうっ血がなくなると酸素消費が低下するためかと考えていますが、そうなると一度強心薬で立ち上げた後でも、ゆっくりと強心薬を減量し、中止できるイメージもわきやすくなるかもしれません。
(心不全が増悪すると、呼吸をはじめとしたいろんな臓器の酸素効率が悪くなり、一層多くの循環血流量が必要になり、心房圧は余計に上昇してしまうと考えています)


後負荷が増大しても、心機能が低下したときと同じように、曲線は下に動きます。血圧を維持しながら、後負荷を落とせれば、突然の心機能低下による循環不全にも心機能を上げなくても、低い前負荷で心拍出量を維持できることを意味し、これを実現する治療がIABPということになります。