心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

心不全のすべて(27:低潅流所見の原因-2)

 

心不全で心拍出量が低下するのは、左室に異常がある時だけではありません。

右室が悪くなった時にも、もちろん心拍出量が低下します。
 
右室機能がもともと悪いような病気や、右室含む心筋炎(大概の心筋炎は両室に起こりますが)や心筋梗塞で右室を栄養する血管が閉塞したときなどは、左室が元気でも、右室の拡張末期容積をいくらふやしても右室から出ていく心拍出量が低下するため、低心拍出状態となります。
特に、右室を含む心筋梗塞の場合には、普通ではしないような大量の輸液と血管収縮薬を用い、心筋炎の時には速やかの両室をサポートする体外循環を用います。
 
また、肺高血圧といって、肺血管が何らかの障害によって血管抵抗が上昇し、肺血管の高血圧を発症する疾患群があります。
原因によっては、ずいぶんと改善するようになってきましたが、未治療な状態であれば、肺高血圧は右室機能にとっての後負荷(右室が血液を駆出するときの抵抗)となります。右室そのものが圧負荷に弱いので、当初は肺高血圧になっても、右室が収縮性をできる範囲で増やしたりすることで対応しますが、徐々にそれができなくなってきた段階で、心拍出量が低下し、抵抗値は低下しませんが、拍出量が低下することで肺の血圧は低下します。この場合には、左室は元気ですが、右室が弱り切ってしまい、右室から出てくる血液量が低下するため、左室がいくら頑張ったところで左室に入ってくる血液分しか、左室しか出ていくことはできませんので、体循環ももちろん低拍出状態となり、低潅流となります。
 
また、慢性心不全が、一過性に水分バランスを崩して急性増悪という状態をとることがあります。非代償性心不全状態です。
この時には、水を全身にため込むような状態になり、不安定化します。
 
心不全の非代償化の時は、全身の水バランスの誤認識を起こしますので、静脈系には水がたっぷりあるのに、動脈系に有効循環血流量が少ないと判断されます。この判断が原因となり、水自体ははあるのにさらに水をため込もうつするような反応をどんどんと起こしていきます。
腎臓での尿量を減らして、どんどんと右室へ血液が返ってきます。そのため、右室が比較的短期間のうちに拡大をしてしまいます。
 
慢性で長い時間をかけて心室や心房が拡大する時には、心膜はそれに伴って拡大していきますが、急性増悪のように数日か2,3週間単位で右室が拡大すると、心膜は進展せずに硬めの袋となってしまい、右室が専有するスペースが増えることで、左室の広がりを邪魔してしまい、左室の拡張を障害するようになります。
 
すると、本来の左室が心拍出量を確保するために十分広がりたいのに、右室が普段より拡張しているため、左室は十分に拡張できない状態になります。
左室は、普段の拡張末期容積より小さいわりに拡張末期圧は普段より高いという状況になります。この状態は、右室にもさらに影響を及ぼし、右室も同じように拡張末期容積のわりに高い拡張末期圧となります。
つまり、急性変化では、心膜という決まった空間を右室と左室で共有していますが、それぞれが急性増悪時に拡大したいが、それぞれが邪魔をして左右両室ともに普段より拡張末期容積が小さいわりに高い拡張末期圧となってしまうという病態なります。
拡張末期圧が高いわりに、拡張末期容積は十分に広がれておらず、小さいので、心拍出量が低下します。
これを右左室の相互作用による心拍出量の低下です。
 
実際の臨床現場では、右室と左室の心房圧(≒心室拡張末期圧)が普段より近い値であるときにこの状態を疑います。
このような時には、心拍出量が多少低くても、静脈系の血管拡張薬を用いて、右室の負荷を取り、右室が小さくなれば、左室も自由に広がれることができるようになるため、相互作用が解消し、両心房の圧がすとんと低下し、心拍出量が増えることを想定して治療を行います。
しかし、右室が単純に左室よりも悪い時にもこのような血行動態をとることもあるため、このような時に静脈系の血管拡張薬を使うと血行動態はさらに悪化するので、あくまで最悪のことを考えながら治療を行うことが必要です。