心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

成長後に発症する拡張型心筋症の原因遺伝子として興味深い研究成果

多くの医師が、参考にしていると思われる情報サイトのひとつで、私もほぼ毎日チェックしているm3というサイトがあります。

<日本最大級>医師向け最新医学・医療情報サイト | m3.com

このm3からの情報ですが、筑波大の研究チームが、PRMT1(アルギニンメチル化酵素)遺伝子欠損マウスで拡張型心筋症によく似た特徴を示すということを報告されました。

pubmedで論文全体が無料で公開されています。(重要な論文は無料公開されます)

(参照:Murata K, Lu W, Hashimoto M, et al. iScience. 2018 Oct 2;8:200-213
PRMT1 Deficiency in Mouse Juvenile Heart Induces Dilated Cardiomyopathy and Reveals Cryptic Alternative Splicing Products.)

これは非常に面白い結果だと思いました。

かなり簡単に説明すると、PRMT1という酵素が心臓で欠損していると、正常に生まれてくるが、成長とともに、特に4週を過ぎたあたりから拡張型心筋症のような心臓になっていき、6-8週の間に14匹すべて死んでしまうという結果です。

 

臨床をしていると、ある時期まではエコーなどの検査上は正常であることが確認されているのに、その後に拡張型心筋症となる人がいます。小児科ではない、一般成人の循環器をしているとこのような経過のほうが多いのではないかと思うくらいです(大概の人は悪くなってからくるので、以前の検査では正常であったという結果がないことが多いので、わかりませんが)。

 

個人個人で、心不全になりやすい、なりにくいというのはあると思います。

左脚ブロックやそれと同じような心臓のペースメーカによる機械的な刺激(右室ペーシング)、それだけで心機能が悪くなる人がいます。

もちろん完全に何かの酵素が欠損しているというわけではないでしょうが、何らかの負荷が心臓にかかったときに、何かの酵素が普通の人より少ないとか、弱いとか、増えないといけないときに増えられないとかの理由で、負荷に弱くて心筋症を発症してしまうということはあると思います。

その原因の候補が、この酵素のような蛋白に何らかの修飾をする酵素、他にはミトコンドリア関連やオートファジーなどの品質管理にかかわるような酵素なんだろうと思います。

 

拡張型心筋症の原因・鑑別の中に、高血圧や糖尿病性の心筋症という項目があります。しかし、正常な心筋が、これらの影響で拡張型心筋症になることは、基本的にはないと思います。(そのために逆にそうでないことを証明することも難題なのですが)

しかし、この研究のような何らかの酵素の欠損した心筋では、高血圧による圧負荷や、糖尿病による冠動脈に血流低下やエネルギーの代謝異常が生じると、収縮性が低下して拡張型心筋症になってしまうのではないかと考えられます。

アミロイド―シスやサルコイドーシスと違って、高血圧や糖尿病による心筋症になる人は、その人の心筋に何らかの異常がある可能性が高いと、私は考えています。

 

一般の診療の中でも、感じることを説明しうる基礎研究というのは、一般の病院に勤務する人にとっても、身近で非常に興味深いと思います。