心外膜炎は、様々な理由によって起こります。
心外膜が炎症を起こすと、心嚢液が貯留します。急性であれば、心膜の炎症により胸痛が生じたり、心不全による呼吸困難などを訴えます。
今回は、ウイルスや自己免疫性疾患などで慢性的に経過した心外膜炎についてのお話です。
収縮性心外膜炎といわれる病気ですが、これに関して一番大事なのは、この病気を疑うことです。
心臓は心膜という本来は柔らかく心臓の大きさに応じて伸展してくれる膜の中に存在していますが、心膜が慢性的に炎症を起こして硬くなると、心臓は心膜の大きさの中でしか自由が利かなくなります。
そのため、収縮性のいい心臓であれば、拡張末期容積を小さく抑えることができますので、その範囲では症状は出ません。
しかし、収縮性が低下したり、後負荷が増大することで、左室の収縮末期容積が増加しなければならなくなった時に、拡張末期容積は心膜によって最大値が決まっているために、心拍出量の低下が起こります。
そして、この時に特徴的なのが、右室の拡張末期圧が左室の拡張末期圧に対して、高くなるということです。
本来、右室の拡張末期圧は左室の拡張末期圧の半分以下です。しかし、収縮性心膜炎で、心不全症状をきたすような心臓が心膜に対して大きくなってしまうと、それぞれの拡張末期圧が同じような値になってきます。
経過としては以下のような形になります。
① 何らかの理由で左室の収縮末期容積が大きくなる
→ 心拍出量を維持するために左室の拡張末期容積が大きくなる
→ 左室の拡張末期圧が上がる
→ 心膜があるために過剰に圧が上がる
→ 左室の拡張末期圧は平均左房圧に等しいので、平均左房圧が上がる
→ 平均左房圧の上昇は右室にとっての後負荷の上昇となる
→ 右室の収縮末期容積が増加する
→ 心拍出量を維持するため、右室も拡張末期容積が増える。
→ 右室の拡張末期圧も上昇する
→ 右室の拡張末期圧が上昇し、容積も増加するが、心膜が固く右室と左室の合計の容積の最大値は決まっているために、左室の拡張末期容積は、広がりきれなくなるか、場合によっては右室によって圧排され、左室の拡張末期容積は減少します。
② 右室の拡張末期容積がなんらかの理由で大きくなる
→ 右室は圧を上げながら容積を拡大する
→ 心膜が伸展しないため、心膜が邪魔をする程度の大きさになったときに突然右室の拡張末期圧が上昇する
→ 左室の拡張末期容積が、右室の圧上昇により邪魔をされて減少する。
つまり、収縮性心膜炎の患者の心不全のタイプとしては、右室の拡張末期圧が本来よりも過剰に上昇することによる右心不全症状と、場合によっては左室の拡張末期容積が減少する場合には、心拍出量は減少し、低灌流症状が出現します。
また、同様の血行動態の病気としては、心タンポナーデがあります。
二つの疾患はよく似た血行動態になりますし、心エコーをあてれば、タンポナーデかどうかはすぐわかりますので、あえて分ける必要なないのですが、決定的にことなるのは、収縮性心膜炎は心膜が固くなっているので、深呼吸による胸腔内圧の変化を心臓は全く受けないが、心タンポナーデは胸腔内圧の変化の影響を受けるということです。
収縮性心膜炎の時の心不全の治療は、心エコーなどによる心臓の動きの良さに騙されてはいけません。
低灌流所見や、難治性の状態になっている時には、その原因は両室の拡張末期容積の増大ですが、その根本には、収縮性の潜在的な低下があります。
強心薬を十分に使って、強心薬が効くと収縮末期容積が小さくなれますので、それに伴って拡張末期容積が小さくなります。すると、心膜の影響が取れる範囲で動けるようになるまで改善すると、一気に血行動態は改善します。
この状態になると利尿薬が効きだしますので、心不全でたまった余分な水が抜け出します。
余分な水がなくなったら(胸水が減ってきたら)、血圧をみながら慢性的な後負荷を下げるような内服を調整して、必要なら、経口の強心薬を使用すると、血行動態を維持することができます。
手術をすることもありますが、適応は慎重な判断が必要です。
また、心臓カテーテル検査の時に、心外膜炎の診断に必要な所見をまとめますが、最近上市された心不全の心臓カテーテルの専門書がわかりやすいと思います。