別項目でお話ししたように癌自体と心不全が、何らかの関連を持っていて心不全患者自体に発癌率の上昇がみられるようです。
ただ、以前の心不全と癌というとほぼ抗癌剤による心筋への障害ないし機能低下ということがテーマだったように思います。
さまざまな抗癌剤で心筋障害がみられますが、主だったものでは、アドリアマイシン系薬剤による心筋障害による心不全と、ハーセプチンによる一過性の心筋機能低下が有名です。
また、抗癌剤以外の薬剤での心筋障害はあまり報告はありませんが、糖尿病治療薬のピオグリタゾンは、腎臓に作用して利尿を減らすことで、浮腫などの体うっ血症状を起こしますので、心不全患者では右心不全を中心とした症状がでることはあります。
また、認知症に対する内服薬であるは、ドネペジルは脈を遅くすることがあるため、高齢者では時折ドネペジルによる徐脈がみられることがあります。徐脈は必ず心不全となるわけではありませんが、健常な心臓であれば、脈が遅くなっても1回拍出量を増やすことで心拍出量を増加させ、このときに左室や右室の拡張末期圧はあまり上昇しません。しかし、不全心であれば、徐脈で低下した分を1回拍出量を増加させることで代償できずに運動耐容能が低下したり、また、低下した1回拍出量を補うために両心室の拡張末期圧が過剰に上昇することで、体うっ血などの右心不全症状が出現したりします。
このように、薬剤と心不全との関係は、心機能そのものを悪化させることは比較的限られた薬剤で、一般的には心機能を悪化させるというよりは、腎臓や脈に関係して心不全の症状を悪化させることが多いように思います。