心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

心不全と癌

(心不全と発癌)

前回、降圧薬による発がんの可能性について、述べました。現時点では、降圧薬による発がんの可能性はないと考えてよいと思います。

 

偶然ですが、今週のCirculationという世界の循環器の3大雑誌のひとつ(他は、JACC, European heart journal)で、心不全と発癌についての非常に重要だと思われる研究論文が載っていました。

今までは、癌と心不全というとがん患者の中に心不全になる人が多く、抗がん剤や放射線の影響か、それとも癌そのものが心臓を悪くするのかという視点が多かったように思います。

この論文は心不全患者の中で発癌患者がどうも多いということに対する原因となる因子を同定することを試みた論文になります。

 

 Heart Failure Stimulates Tumor Growth by Circulating Factors

(心不全は循環している因子によって腫瘍形成を促進する)

Wouter C. Meijers, et al. Circulation. 2018;138:678-691.

 

研究論文の内容は、大腸がんができやすい遺伝子を持ったマウスを心筋梗塞にすると大腸線腫(大腸がんの前がん病変)の発達が早くなる(数と大きさが増える)。

その原因として、5つのたんぱく質を同定したうえで、特に腫瘍形成に関係するたんぱく質を同定して、確かにそのたんぱく質は蛋白合成にかかわる経路を刺激する(この経路を阻害する薬はラパマイシンといって抗がん剤として使われています)。

ここまでを動物実験で確認します。

そのうえで、今までに人間で行われた心不全関係の8000人規模の観察研究と100人規模のVitaminDによる心不全への介入研究のデータ及び追加検査を使って、まず心不全患者では、動物実験で同定した5つの因子が高値となっていて、発癌のカスケードを促進している可能性があることを証明。さらに、心臓に負担がかかったときに上がるNT-proBNPという値が高いと全体の癌および大腸がんになりやすいことを示し、さらに、心臓に障害があったときに上がるTroponinTや、心不全で上がる慢性的な炎症の指標の数値が高いと癌になりやすいことを示します。

 

すなわち、心不全では発癌しやすく、心不全で上がるたんぱく質が発癌を促進している可能性があることを示しました。

 

実験としても、非常に論理的で、仮説を動物実験で証明したうえで、人間の研究にまでもってきて、さらに展開させるという、研究としてすごくきれいなだけでなく、今まで心不全で癌患者が多いという、ただの関係性で、因果関係がわからなかったものに対して、因(心不全)果(発癌)関係を示す重要な研究だと思います。