心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

心不全のすべて(27:低潅流所見の原因-1)

慢性心不全が進行し、低潅流による症状が出始めると、心不全としてはかなり重症となってきます。

うっ血は拡張機能の障害であると述べました。(もちろん収縮機能も関係はしますが)
では低潅流所見をきたすことになる心拍出量の低下はどのような機序により出現するのかを述べていきます。
 
心拍出量は、有効循環血流量を満たすだけ心臓から出ていきます。有効循環血液量ではなく、血流量ですので、ある時間当たりに心臓から出ていく血液の流量ということになります。
心拍出量は、1回心拍出量×心拍数(1分間に心臓が収縮する回数)と規定されています。単位は、1分間当たり何リットル(L)かになります。つまり、L / min(分)で、さらに、心拍出量は、体の大きさによってある程度必要な量が推測できるので、さらに身長と体重から概算される体表面で割った値が、一般的に使われる心拍出量の単位となります。つまり、L/min/m2が心拍出量の単位です。
およそ、2.5L/min/m2を超えていると、心拍出量は十分だろうと推定されます。また、年齢や筋肉量などによっては、2.2L/min/m2程度までなら許容されることもありますが、さすがに、2.0L/min/m2を切ると、私の経験ではかなりの重症な心不全でした。
繰り返しますが、心拍出量は、体が必要な循環血流量を満たすように決まりますので、心臓に余裕はあっても体が求める血流量が低ければ低い値になるので、多少低めの値だからといって心臓に余裕がないかどうかはまた別の問題になります。
 
このあたりの心臓の余力をみるには、運動などの負荷を体にかけて必要な血液量(需要)が増えた時に、心臓が十分にその血液量を提供(供給)できるかをみる必要があります。
今はまだできませんが、例えば1運動単位量というものを設定して、その運動量の増加に対して心臓がどれだけの負担を強いられながら血液量を増やしているのかを計測できれば、最大負荷をかけなくても、心臓の余力測定ができるかもしれません。
 
*現時点での運動量の設定としては、メッツ(Met, 複数形Mets)という単位があります。これは、60kgの成人男性が、座っているときに必要な酸素摂取量となります。
酸素摂取量は、心拍出量と1次関数の関係となりますので、酸素摂取量を測定することで心拍出量を概算することができます。
 
 
さて、話がそれましたが、心拍出量が低下する原因をみていきます。
左室を中心に見ていきます。
左室の収縮力が低下していくと、徐々に左室は大きくなります。これは、イメージとしては小さな器であれば大きく揺らさないとこぼれない水の量が、大きな器では少し揺らすだけでも同じ量の水をこぼすことができるような感じです。
 
一つの心筋細胞機能が低下して、全体的な左室収縮機能が低下しても、心筋梗塞などで部分的にある程度の範囲で心筋障害が起きて、左室全体としての収縮の機能が低下しているときにも、左室は全体的に大きくなります。
左室の収縮機能が悪くならずに、左室の拡張する病気は基本的にはありません。あるとすれば、必要酸素量が過剰に増えているときか、何らかのホルモンが過剰な時くらいであろうと思います(成長ホルモン過剰な状態)。
 
(*理論的に、左室の収縮機能が保持されたまま左室が拡張すれば、左室駆出率は低下するか、心拍数がかなり低下します。なぜなら心拍出量は体の需要で決まるので、心拍出量は悪くない心臓であれば一定だからです。アスリートではこれに近い変化がみられることがあります)
 
 
収縮機能が低下すると、必要な心拍出量を満たすために拡大せざるを得なくなります。
左室の収縮末期容積は、収縮機能と心臓が収縮して血液を大動脈に駆出するのに対する抵抗(後負荷)によって決まります。そのため、収縮機能が低下すると後負荷を下げない限り収縮末期容積は拡大します。そして、拡大した収縮末期容積に必要な1回拍出量を加えたものが、拡張末期容積になります。
 
この時の組織学的な変化としては、心筋細胞は筋層レベルで何層にもなっています。そこが進展します。特にもともと薄い心房では血液の色が透けるほど薄くなるそうです。
伸展して薄くなると、収縮効率はそれだけでも落ちてしまいますが、拡張すること自体は、心筋はばねの性質もありますので、同じ心筋であれば、伸ばせば伸ばすほど収縮力は増えて、収縮末期容積はより小さくなるように変化をします。
これらの作用により、心筋の収縮性が落ちても、心臓が拡張すること自体で、収縮性を増やすことと、心拍出量を稼ぐこととができます。
 
心筋細胞の機能低下で左室が拡張してそうな時には、心臓の病理組織を見ると、あまり心筋がまとまってなくなっている場所はなくて、全体的に心筋細胞の密度が低下して、空いたスペースに繊維組織が増生しています。また、心筋細胞の数が少なくなっているときには、局所的な心筋細胞がない場所があって、そこに心筋の強度を補うために繊維組織の増生がみられます。また、このような時には、樹状細胞などの炎症にかかわるような細胞がみられることが多いように思います。
 
ここで、仮に拡張機能障害がなければ、また、人間の胸郭という制限がなければ、心臓はかなり大きくなれて、さまざまな機序により心拍出量は保たれると思われます。
しかし、拡張すればするほど、心筋組織そのものによって、または、心臓を覆う心外膜によって心臓の拡張末期圧は上昇します。
この拡張末期圧が症状を起こさない範囲で収まっていればいいのですが、うっ血症状を起こすか、または、それを超えて、それ以上の拡張末期圧には上がらないほど高値となるような拡張末期容積になった時に、左室はそれ以上に拡張することができずに心拍出量は低下します。
 
つまり、心臓は収縮機能が低下したときに、心臓を拡大させることで、それを補おうとしますが、拡張末期圧によって、それ以上に拡大できない時点で、それ以上に心臓は拡張できなくなり、必要な1回拍出量を出すことができまくなります。
 
また、1回拍出量が減ると、心拍数を支配している洞結節がある程度心拍数を増やすことができれば、1回拍出量の低下を補って心拍出量を維持できます。しかし、心拍数の過剰な増加自体が心臓の後負荷になり、心臓の収縮回数の増加そのものが心筋の酸素消費量の増大となります。酸素消費量の増大は、心臓にとって負荷となりますので、心拍数をあげるのにも、ある程度の上限があります。(人によりますが、80回程度。かなり特殊な病態では100回とかもありうるが、あくまでレアケース)
このため、心拍数による代償も限られています。
どうしても、洞結節が機能不全で、心拍数が50回程度にしかならない人に関しては、心房にペースメーカを入れて、心拍数自体を人工的にコントロールすることもあります。
 
繰り返しになりますが、心拍出量はあくまで、体の酸素需要によって決まります。しかし、収縮機能が悪化したときに限り、心臓が心拍出量の上限を決めます。この時に、全身の需要する血流量を心臓が供給できなくなった時に低潅流所見が起きます。