心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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心不全のすべて(26:非代償性心不全と代償性心不全)

(最終更新 2019/2/14)

    (厚生労働省のワーキンググループ資料)f:id:KenzyN:20180924140810p:plain

 

 

上の図は、心不全の患者さんがたどるであろう一般的な経過を示した図です。

上の図で、心不全の慢性的な経過を示しているなだらかな下降脚の曲線の中に、いくつか突然急激に下降している赤のラインや、突然谷のように落ち込んで、元の少し低いレベルに戻っている部分があります。

これは、心不全という経過の中で、突然死の原因となるような事態が発生したり、心疾患に関係する入院が必要か、それに近いくらいに不安定になる状態が何度も訪れることを表しています。
心不全の経過が最期に近づけば近づくほど頻度が多く、また、下降し上昇するまでの期間が長くなることも表しています。
 
心不全の経過の中には、心筋梗塞や致死的な不整脈(起こると命に係わる不整脈)によって、急に状態が変化することがあります。これは、心臓や冠動脈に何らかの異常があるStageBでも、StageC,Dでも起こりえます。
もともと冠動脈疾患(主に心筋梗塞)で心不全になった人もそうですが、心不全になると致死的な不整脈が起きやすくなり、起きた時に自然に停止しにくくなります。そのため、突然死亡する可能性が高くなります。
この図の突然死を示す赤のラインが、Aの最後かBかというところからみられているというのは、このような時期から致死的な心筋梗塞や不整脈がおこる可能性があるということを示しています。
 
 StageBとCの間に心不全発祥とあります。StageAも心不全のstageですが、あくまで、最終的な心不全になった方をふりかえらばこういう時期もあったよねという意味合いと、高血圧などが将来的に心不全になる可能性がありますよという警鐘の意味とがあります。
また、StageBは何らかの異常が心臓にあるにはあるが、まだ症状が出ていないという状況です。これも、正確には心不全とは言えない状況ですが、StageAよりはぐっと心不全に近いので、これも強い警鐘の意味があります。
 
一般的にイメージされる心不全は、やはりStageCからであるといえます。
 
代償性心不全と非代償性心不全という言葉があります。
一般的な心不全のイメージは、浮腫があって、少し動いただけで息切れがあって、という状況だと思います。心不全の症状でもうっ血の症状として紹介したようなものがあるのが心不全と思われていると思いますが、このような状態は心不全の中でも非代償期といわれます。心不全によるうっ血や低潅流の症状があり、不安定な状態であることを意味します。
この非代償の状態を、利尿薬を使ったり、血管拡張薬を使ったりして治療したうえで、一般的には内服を中心とした治療でうっ血による症状がなく、その人の心機能などから予想される程度の日常生活を症状なくできている状態(適当な運動強度に耐えられる状態)を代償性心不全といいます。
 
実は、多くの心不全の入院は、代償性心不全が非代償化していることがほとんどです。
 
急性心不全の中には、皆さんが想像するように、元気な人が心筋梗塞や心筋炎になって、突然心不全になるということもありますが、これは割合としては少なく、多くの急性心不全は、慢性心不全で代償期の状態の患者さんが、急性増悪といって、上気道の感染や突然の不整脈(心房細動など)をきっかけにバランスを崩して非代償性心不全という状態になることがほとんどです。
これを急性心不全の中でも、慢性心不全の急性増悪といいます。
 
また、これも多くの代償性心不全の方は、初めての非代償化による心不全の急性増悪時に、初めて心不全と診断され、自分が心不全であったことを知ることが多いと思われます。特にいわゆる高齢者心不全に多いとおもいます。
この初回の非代償性心不全がおこったというのが、上の図で、StageBとCの境界に大きく落ち込んでいる谷です。
実は、このように実際は自覚症状のないままStageBの心不全期を過ごし、上気道炎や自然にそれが徐々に進んである一定の閾値を超えて非代償性心不全となることが多いのです。
もちろん、若年者の冠動脈解離といって、冠動脈が突然閉塞するような形で発症した心筋梗塞や心筋炎のように、その直前まで全く元気であるような人が、突然重篤に心不全となり、その治癒後にStageCの心不全となることもありますが、割合としては少ないです。
 
また、すべてstageBとCの間に非代償性心不全があるわけではなく、中には心機能の低下や弁膜症があるために厳重に外来で検査を受け、不安定な非代償性の心不全にならないか、ほんの少し不安定になるだけで内服の調整で、はっきりとした心不全による症状の出現を適切に診断・治療される方もいますので、かならずStageBとCの間位に図のような大きな落ち込みの非代償性心不全があるわけではありません。
 
 
一度目の心不全の非代償状態は、たいてい代償化することができ、症状の安定した慢性心不全として経過していきます。
このため、多くの人が、「心不全が治った」と思われてしまいますが、残念ながら、特殊な原因による心不全以外、心不全自体が治ることはありません。あくまで心不全の非代償状態から代償状態になっただけです。
そのために、再度非代償状態にできるだけならないように、また、なるとしてもできるだけ先延ばしできるように、患者さん自身にも病気と向き合うことが要求されます。
 
他の病気で亡くならないかぎり、いつかは2回目の非代償期がやってきます。今までの私の感覚では、およそ1年から2年後におこるかどうかが一つのポイントではないかと思っています。2年で起こらなかった人は、その後、非代償化がくるのはかなり遅れる印象です。(あくまで印象です)
しかし、心不全の非代償化は、何度も起これば起こるほどに、代償化させるのが困難になり、徐々にそれもできなくなり、最終的には、非代償状態の状態から抜け出せなくなります。
つまり、これがStageDの状態です。
 
StageCの間に、代償性心不全と非代償性心不全を繰り返しながら、徐々にStageDへと移行していきます。