慢性的に経過する心不全の原因を、根本的に治療可能かどうか、または予防可能かどうか、によって分けていきたいと思います。
こういう分類は、特に実際に患者さんを前にする実臨床では非常に重要です。
その患者さんの心不全の原因についてどこまで検査するかという直接的な臨床の問題があるからです。
根本的に治療が可能な原因による心不全は、アルコール性心筋症やサルコイドーシスによる心筋障害のように、アルコールをやめるとか、活動性のあるサルコイドーシスに対してステロイド治療を行うなどの治療法が存在する原因による心不全です。
これは非常に重要な分類で、これらは原因自体を治療することができるので、その時点で消失している心筋細胞が戻ることはもちろんありませんが、可逆性のある機能不全の段階であれば、原因除去後に心機能が改善することが期待されますし、少なくともその時点以上に、その原因そのものによる心筋細胞障害が起こることはないと考えられます。
重症心不全状態では、高度な心不全であること自体が緩徐に心筋障害を起こしますので、完全に止まるわけではないと思いますが、原因が残存しているよりはもちろんないほうが進行は遅いと思われます。
①治療可能な原因による心不全
a. 冠動脈の病変
b. 弁膜症性疾患、左右短絡性疾患
c. 不整脈(頻拍誘発性心筋症、心房細動/粗動、多発する心室性期外収縮)
d. 収縮性心外膜炎
e. 薬物(アルコール、抗がん剤などすべて含む)
f. 全身性疾患
免疫性疾患
浸潤性疾患 (サルコイドーシス、アミロイドーシス)
内分泌性疾患 (末端肥大症、甲状腺機能異常、副腎皮質機能異常)
先天性酵素異常 (特にファブリー病)
g. 高拍出性心不全
重症貧血
動静脈シャント
脚気心
h. ウイルス性心筋症 (HCVなど)
②予防可能、予防する何らかの手段がある原因
a. 冠動脈の病変 (動脈硬化性疾患の治療)
b. ウイルス感染 (治療はできないが、ワクチン接種で予防可能なもの)
c. 高血圧などの心不全の形成に強く関係するとされている慢性疾患
これら以外は、現時点ではいわゆる心不全の標準治療を行うしかありません。
治療できない心不全の原因について、いくら調べても、例えばあなたはタイチンが不全を起こしているから心不全なのだといったところで、現時点ではタイチンの不全を治療することはできません。
ただし、今後のことを考えると、タイチン不全の心不全の人、トロポニン不全による心不全の人など、原因別の心不全の特徴や、今ある心不全の標準的治療(β遮断薬やACE阻害や抗アルドステロン阻害薬など)に対する反応性などを調べることは、非常に意義あることだと思います。
また、診断法が確立していないと、いきなりタイチン不全の治療ができるようになった時(いきなりは普通ないですが)に、治療する対象が診断できないということにもなりえます。(ふつう診断のほうが先にできるとも思いますが)
遺伝子検査が、今後かなり安く(10000円以下)でできるようになるであろうことを考えると、遺伝子検査なども重要だと思います。
(心不全は後天的な環境因子の影響が大きく、遺伝子検査も一つ二つの心不全原因遺伝子を持っていても心不全にならない人はたくさんいたり、一筋縄ではいかないですが)