心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

心不全のすべて(35:ミトコンドリア病)

ごくまれにみられるミトコンドリア病も、心不全をきっかけに診断されることがあります。

現時点では根本的な治療方法は見つかっていませんが、補酵素のビタミンや、コエンザイムQ10の投与が行われることがあります。

 

ミトコンドリア病は、ミトコンドリアに異常があって、エネルギー産生が低下することによって臓器障害が起こります。

ミトコンドリアは、エネルギー産生以外にも、活性酸素の除去やカルシウム貯蔵なども行っていますが、エネルギー消費の多い臓器を中心に症状が出ることなどから、主な病態はエネルギー産生障害によると考えられています。ただ、もしかしたら、心不全には活性酸素やカルシウムも関与しているかもしれません、わかりませんが。

 

ミトコンドリア自体が母系遺伝で、すべての人のミトコンゴリアは母親と同じものです。

ただ、ミトコンドリアの遺伝子は少し不安定で、変異を起こすことがありますし、ミトコンドリアは臓器によって活性度か多少異なるらしいので、母親がミトコンドリア病ではなくても(正確には無症候性ミトコンドリア病といえる状態)、活性度によっては子供はミトコンドリア病になることもあります。

また、孤発性といって、ミトコンドリアの遺伝子の突然の変異によって、その変異がミトコンドリアのエネルギー産生に及ぼす機能低下を起こす時には、その子供だけミトコンドリア病となります。

 

ミトコンドリア病は、症状によっていくつかの症候群に分けられています。

その中のいくつかの症候群で心不全がみられますが、まずは、なんらかの中枢神経症状(難聴や知的障害)と糖尿病のある心不全の人がいたら、本疾患を疑います。特に、若い人で難聴と心不全は、この疾患を鑑別に上げてもいいと思います。

 

心不全のタイプとしては、拡張型心筋症の形態をとったり、肥大心であったりと、決まった形はとらないようです。

これは、エネルギー不足になったときに、とりうる形態が個々の心筋のもともとの何らかの脆弱性に起因するのか、エネルギー不足の程度によるのか、エネルギー不足以外の要素がかかわっているのかはわかっていません。

 

私が経験したのは、一例は肥大心(引継ぎ患者さん)で、一例は拡張型心筋症型(新規診断)でした。

新規診断した方は、若いのに難聴があって、糖尿病があるわりに、冠動脈に異常はなかったことから、ミトコンドリア病を疑って診断となりました。ミトコンドリア病の中でも、MELASという症候群でした。

診断を付けたのは、神経内科の先生です。疑った段階で、神経内科の先生に相談して、いろいろ検査して頂き、最終的な診断になりました。

もともと、ミトコンドリアでは酸素を使って、エネルギーを有効に作りますが、ミトコンドリア病では、それが十分にできずに、酸素を使わない非効率的なエネルギー産生(解糖系)が行われるため、解糖系で乳酸が産生されます。そのため、ミトコンドリア病の方では、乳酸値の上昇がみられるのですが、この患者さんでは、血液で乳酸の上昇はみられずに、髄液でのみ乳酸が上昇していたのを覚えています。

 

心筋生検を行ったのは、その全身疾患が100%心疾患を及ぼす病気であればいいかもしれませんが、偶然の合併の可能性は否定できないからです。

かなり低い可能性ですが、心筋炎や治療可能なサルコイドーシスなどがミトコンドリア病に偶然合併しているために心不全になっている可能性は否定できません。そのため、この患者さんにもガリウムシンチは行いましたし、ミトコンドリア病で心筋障害が出ていることを、心筋の組織をみて、ミトコンドリア病による典型的な所見があることをもって、ミトコンドリア病による心筋障害であることを確認しています。