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心臓リハビリテーション(10)

心不全の患者さんに対して、心臓リハビリテーションを行うのに、入院であれば、できるだけ早くに患者さんの状況を把握して、その段階でできることをやっていくことが重要で、また、自覚症状を中心にして、血圧、脈といったバイタルサインに注意しながらリハビリを行うことが重要であるとお話をさせていただきました。
 
その中で、嫌気性代謝閾値という言葉をちらっとだしました。この嫌気性代謝閾値は、心不全のリハビリでは、それほど重要ではありませんが、心臓リハビリテーションには非常に重要な言葉ですので、お話ししたいと思います。
まず、心不全でそれほど重要ではないといったのは、2つ理由があって、嫌気性代謝閾値をこえる運動をできる心不全の人が少ないのが一番大きな理由で、もうひとつは、心肺運動負荷試験で嫌気性代謝閾値を決定するのが難しいというがあります。
心不全の場合には、もちろん心機能が悪いというのが前提にある上に、若年者であればいいのですが、やはり高齢者が多いので、嫌気性代謝閾値を行く前に、たいていBorg scaleで運動の上限に達してしまうことが多いです。
 
さて、嫌気性代謝閾値は、AT(Anaerobic Threshold)といわれます。
簡単にいえば、一般的に言われる有酸素運動が無酸素運動に代わるポイントということになります。
体の中で、糖などの基質は、化学変化を受け、ATPというエネルギーを蓄えた物質を少しだけつくりながら、ひとまずピルビン酸という酸を経て、アセチルCoAという物質に変化します。この過程では、酸素を使用しないために、このATP産生を嫌気性解糖系といいます。アセチルCoAをミトコンドリアに投入すると、酸素を使いながらミトコンドリア内で多量のATPが産生されます。
安静時から運動を始めていっても、しばらくは酸素を使って、ミトコンドリアでエネルギーを産生します。運動強度がどんどんと強くなるとミトコンドリアでのエネルギー産生だけでアセチルCoAを消費できなくなります。するとこのときにミトコンドリアでのエネルギー産生の回路(TCA回路)の中へ投入できなくなったアセチルCoAがだぶつきます。すると、一つ手前のピルビン酸がだぶつき、ピルビン酸は、アセチルCoAにならずに、乳酸になります。この乳酸が発生すると、血液が酸性に傾こうとします。これに対して循環の中で酸性に傾させまいと抵抗しますが、それとは別に、血液から肺胞内へもCO2を出すことで、酸性になることに抵抗し、血液を中性に保ちとうとします。
つまり、運動強度が上がって、嫌気性代謝が始まると、呼気の中のCO2濃度が上昇するということになります。
逆に、この呼気の中のCO2濃度を測定し、その変化をみれば体の中の嫌気性代謝が始まったポイントを知ることができます。
 
吸気と呼気の酸素濃度の差(酸素摂取量)と二酸化炭素の排出量は、安静時から、運動開始後しばらく同じ比率で上昇していきます。つまり、酸素の消費と二酸化炭素の排出を一定の比率になります。これは、ミトコンドリアで酸素が消費されてエネルギーが作られていて、アセチルCoAがだぶついていないことを示します。
徐々に、運動強度が上がっていくと、ある時点で、同じ比率で増加していて酸素摂取量と二酸化炭素の排出量に変化がみられ、二酸化炭素の排出量の比率が上がっていくポイントがみられるようになります。このポイントの酸素摂取量のことを、嫌気性代謝閾値(AT)といいます。ATの次元は、酸素摂取量です。
 
一般的な心臓リハビリテーションは、このATの時の心拍数を基準に、例えば、ATの1分前の心拍数になるような運動を行うようにしていきます。
これは、心臓に関係するリハビリテーション全体にいえます。(下肢の虚血に関してはこれが最適でない可能性はあります)
心不全でも、十分に運動耐容能があるようであれば、ATを調べて、1分前の負荷量とか、ATの心拍数などになるように運動をしていく処方がいいと思います。
繰り返しますが、心不全のリハビリでATはあまり重要ではないといったのは、ATになるまでの運動をするとBorgスケールのほうが先に上限に達する人が多くて、あまりATでの運動ができないことが多いということで、ATになるまでBorgがあまり上がらない人は、AT処方での運動療法が勧められます。
 
では、なぜATを超える運動は、日ごろのリハビリで行わないほうがいいのかというと、ATを境にそれをこえる運動では交感神経の活性化が顕著になるためです。
交感神経の活性化が起こると、心不全患者さんにとって、最も怖い不整脈の発生する率が増加しますので、これは避けなければなりません。
ATを超える運動では、不整脈の発生などのリスクが増加するために、行うのはよくはないということになります。
 
また、このATを求める検査が心肺運動負荷検査(CPX, Cardiopulmonary Exercise Test)ということになります。