心不全の原因で、治療可能なもののうち、心臓に限局して起こる可能性のある疾患や心臓の異常が初発で診断がつく疾患がいくつかあります。
今回は、その中からサルコイドーシスを取り上げます。
サルコイドーシスは、厚生労働省の難病に指定されいる比較的珍しい病気です。
心臓と肺の線維化病変を伴わなければ、基本的には自然に治ったりすることが多い、予後の良い疾患です。
心臓の病変も自然に治っているものがあるかもしれませんが、それはわかりません。
詳細の診断は、日本サルコイドーシス・肉芽腫学会からガイドラインがでていますので、参考にしてください。
第38回 日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会総会のご案内: サルコイドーシスの診断基準・治療指針: サルコイドーシス診療の手引き2016
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どういう病気かというと、過剰な免疫が体のどこかで起こって、肉芽腫という腫瘍性の病変を作る病気で、もともとは皮膚のサルコイドーシスから発見されたとのことです。基本的に、全身にサルコイドーシスは起こりますが、肺のリンパ節腫脹や肺線維症、眼のブドウ膜炎、そして、心臓の病変が多くみられます。
心臓のようにリンパ球が浸潤して組織障害を起こすこともあります。
過剰な免疫状態となるきっかけとしてニキビの原因となる細菌(プロピオニバクテリア)の関与などが疑われています。
心臓サルコイドーシスは、全身または多臓器のサルコイドーシスに伴って心臓にもサルコイドーシスによる障害がでる場合と、心臓のみにサルコイドーシスによる障害がでる場合に分かれます。
ちなみに、心臓サルコイドーシスのガイドラインが出版されていますが、このガイドラインで診断できるのは、あくまでも活動性のあるサルコイドーシスであることに注意が必要です。
心臓のサルコイドーシスの特徴は、3つあります。
ブロックを中心にした不整脈、局所的な心室瘤もしくは心室の非薄化、拡張型心筋症タイプの心不全となることです。
どれかひとつだけのこともありますし、全部のこともあります。全部の時には段階的に生じることが多いです。
房室ブロックでペースメーカを入れて10年後くらいに心不全となって、振り返ってみるとそのときからサルコイドーシスであった可能性があるなどの時です。
ペースメーカを入れ、右室ペーシングとなることで心機能低下を起こす人がいますが、もしかしたらサルコイドーシスの合併もあるかもしれません。
また、もともとの拡張型心筋症に、後からサルコイドーシスになっただろうと考えざるを得ないような、かなりまれな患者さんもいました。
サルコイドーシスには、ステロイド治療という有効な治療があるので、診断はかなり重要です。
徐脈の場合には、かなり高度のブロックとなるため、なかなかステロイドの効果を見てからというわけにはいきませんが、心不全の場合には、その時点で残存している心筋次第で、心機能の改善がみこまれるため、心不全の場合のサルコイドーシスの見逃しは、絶対に避けなければなりません。
一般的な診断基準は、上記の学会のガイドラインを参考にしていただくとして、今まででの経験上どこまで検査をすれば、サルコイドーシスではないと否定していいのかというと、
1)血液検査
ACEは10以上なら否定はできない。15以上なら怪しく、20以上ならかなり疑わしい
sIL2受容体に関しては、正常でも、高めから上限程度であれば可能性は否定できない。基本的に悪性リンパ腫のようには上がらない。
トロポニンI or Tは、上がっていれば何らかの心筋症がを示唆するため、特異性は低いが、治療の有効性の判定にはなる。
2)心臓MRIは、否定する材料にはなりにくいが、まったく遅延造影がなければ可能性は低い。T2で浮腫が限局的にあれば、可能性は高い。
3)ガリウムシンチグラフィー と PETで陰性
ガリウムかPETどちらがいいかという問題があります。どちらかしか陽性にでないこともあるので、理想は両方だとは思います。私のいた施設は、私がいたころはかなり寛容で入院中に両方することができました。今は、どちらかしかできません。
では、どちらがいいかというと、施設の慣れと心不全の度合いで決めてください。施設でサルコイドーシスのPETになれていないか、心機能が悪いときにはガリウムをお勧めします。ガリウムは陽性所見がわかりやすいので、診断に悩むことがほぼありませんが、PETの場合には、特に心不全が進行している場合には、不全心筋では糖の取り込みが亢進しているため、maxで2-3SUVという値はとります。そのため、全体的にまんべんなく染まったりしたときには、多少すぽっちに高いところがあっても、不全心のためにそうなっているかどうか、判断に悩むことがあります。そのため、不慣れな施設や不全心筋の場合にはガリウムをお勧めします。
施設として、サルコイドーシスの診断になれているというときには、私が言う必要もなく、それぞれで判断いただければと思います。
4)心筋生検(5カ所以上から)で、サルコイドーシスに特徴的に非乾酪性肉芽腫がないだけでなく、リンパ球の浸潤もない。
サルコイドーシスは、一見心筋炎かと思うくらいリンパ球が浸潤していることがあります。そのため、複数サンプルで、まったくリンパ球浸潤がなければ、サルコイドーシス、特にステロイドの適応になる活動性のあるサルコイドーシスではない可能性があります。
ただ、これらのいくつかはステロイド治療の対象となる活動性のあるサルコイドーシスを否定できるだけで、サルコイドーシスによって障害を受けた心不全かどうかまではわかりません。
治療についても、少し述べておきたいと思います。
基本的に治療は、プレドニン 30mg/日を4週間投与で開始します。経過中に、トロポニン I or Tが上がっていた場合は、こまめに測定すると治療の目安になり、プレドニン開始後に正常化することが確認できます。(心筋炎と同じです)
投与前に、かならずプレドニン投与前スクリーニングで糖尿病のチェックなどは行っていく必要があります。眼病変に関しては、ブドウ膜炎のチェックで眼科受診してもらっているともいますので、白内障や緑内障のチェックも必要ですし、骨粗しょう症のチェックも重要です。歯科受診も必須です。
4週間経過後に、20mgに減量し、以後2週間ごとに、15mg、10mgと減量し、以降は、2-4週間程度の間隔で、7.5mg、5mgと減量します。おそらく、5mg程度までは減量できると思いますが、その後の減量は注意が必要です。2-2.5mg程度までは1年で減量を目指したいところですが、無理は禁物です。
ここで、重要なことがありますが、20mgに減量する前か後に、かならずガリウムか、PETで陽性所見があった患者さんには、同じ検査を行って活動性がコントロールできていることを確認して下さい。
PETやガリウムは10万円する高価な検査ですが、心臓サルコイドーシスは、その検査を複数回して治療反応性を確認することが必要なほど重要な疾患であると考えます。
そのため、30mgの活動性の消失をかならず確認してください。私は、サルコイドーシスでプレドニン以外を併用したことはありませんが、30mgで活動性がコントロールできていない場合には、免疫抑制薬の併用が必要ですので、その判断のためにもかならず4週間の時点で画像でチェックしてください。
ACEやsILは、活動性の指標にはならないとされていますが、再発の指標にはなります。プレドニンが効いていると下がりますし、再発するとあがることがあります。定期的に血液検査でチェックしてください。
また、1年程度経過したら、再度活動性をチェックしながら、漸減してください。
サルコイドーシスは、あまり経験しない疾患ですし、少し診断が複雑です。しかし、有効な治療があるので、しっかりと疑い、しっかりと診断をしたいものです。