心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

心不全のすべて(29:運動耐容能の指標-3-1, CPX, 心肺運動負荷試験)

④心肺運動負荷試験, CPX (CardioPulmonary eXercise test)

 
この項目で伝えたいのは、とにかくCPXはまずpeak VO2だけでいいということです。
(他も重要ですが、いろいろ考えだすとややこしくてCPXを嫌になるかもしれませんので)
 
まずは、簡単に用語の説明を行います(日本語訳は対応する日本での用語になります):
 
# peak VO2(peak volume of O2):最高酸素摂取量
  →運動負荷中に最も多かった酸素の取り込み量で、1分あたりの取り込んだ酸素の体積になります。たいてい運動の最後の瞬間が最高になります。酸素の摂取量は、心拍出量と相関するため、運動中の心拍出量を反映していると考えられています。
 また、最大酸素摂取量といわれることもありますが、最大はmaxとなるので、peak VO2は直訳では最高が正しいと思われます。
 ちなみに、max VO2は運動強度を上げ続けてもそれ以上にVO2が上がらないときのVO2の値をmax VO2(最大酸素摂取量)といいます。主にアスリートの運動能力の評価に用いますので、普通の人、ましてや心不全患者がmax VO2を出すことはまずありません。
 
 
# VCO2(volume of CO2):二酸化炭素排出量
 二酸化炭素の排出量は、基本的には酸素の摂取量よりやや低くなります。75-90%程度。(普段の食事の影響などを受けます)
 運動の強度を上げていくと、酸素の摂取量と二酸化炭素の排出量は両方とも増えていきますが、徐々に酸素の摂取量に対しての二酸化炭素の排出量の相対的な値が増えていきます。つまり、VO2とVOC2は当初比例の関係で両方とも増えますが、途中でこの傾きが変わるところがあります。この時点が体の中で酸素を使わない嫌気性代謝によるエネルギー産生が始まった時であると考えられています。
 また、換気効率(VE/VCO2)といって、全体の換気量に対する二酸化炭素の割合を評価します。効率のいい換気は少ない肺活量でも多くの二酸化炭素を効率よく排出できるため、VE/VCO2の値は低くなります。
(1単位あたりのCO2を換気するのに必要な換気量ということです)
(VE:換気量)
 
# AT(Ananerobic Threshold):嫌気性代謝閾値
嫌気性代謝というのは、運動をしていくとある程度のところまでは、酸素をミトコンドリアで使ってエネルギーを作ります。どんどんと運動の強度を上げていくと、個人個人で違うタイミングで、徐々に嫌気性代謝といって、ミトコンドリアを使わずに酸素がない状態でのエネルギー代謝を行うようになります。酸素を使わないでエネルギーを作ると乳酸ができます。乳酸が血中に増えると、乳酸は酸ですので、かわりに呼吸から酸性物質を排出して、血液を中性に保とうとします。この時に、呼吸から出る酸性物質が二酸化炭素です。(二酸化炭素は中性ですが、水に溶けると弱酸になります)
これを逆手にとって、患者さんの運動中の吐く息を解析して、二酸化炭素が酸素に対して増えてきた時をもって、嫌気性代謝が始まったと判断します。この時に、酸素摂取量を嫌気性代謝閾値といいます。
ATは嫌気性代謝が始まったと考えられる酸素摂取量という言い方もできます。
 
では、本題です。
運動耐容能を最も客観的に評価できる指標が、このCPXとされています。
CPXは運動中の酸素の取り込みと二酸化炭素の吐き出しを同時に測定することで、運動がどれだけ全身にとって負担になっているか、心臓が運動時にどれだけパフォーマンスをあげて対応できているかを見る検査です。
 
CPXについては、いろいろな項目で全身の運動パフォーマンスや心不全の状態などを評価することができますが、一番大事なのは、とにもかくにもpeak VO2です。
ATとか、換気効率とかいろいろ評価できますし、ひとつひとつも重要ですが、それらを解釈しようとして難しいと思うよりは、peakVO2をしっかり評価するということだけを意識したらいいかと思います。
 
そのためには、実施する際の注意点のほうが重要だと思います。
きちんと検査を実施して、難しいことは置いておいて、とにかくまずpeakVO2を評価する。ひとまずは、それでいいと思います。
特に、ATは心不全が重症化すればするほど、決めるのが困難になります。ATの候補が一つではなく、いくつか出てくることと、ATに行く前に運動が終了してしまうことも多々あります。逆に、しっかりとここがATだといえるようであれば、結構心機能は維持されている可能性もあるからです。
検査中に特に注意する点は、しっかりと本当に限界近くまで負荷をかけることと、マスクのフィットを常に注意することです。意外にマスクがずれて、酸素がそのままマスク内にはいって、酸素濃度と二酸化炭素濃度が突然変化することがあります。
検査中は、患者さんの状態をチェックしながら、常にVO2とVCO2をチェックしてマスクがちゃんとついているかどうかを意識しましょう。
 
CPXについては、また、検査のパートで話そうと思います。