心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

心臓リハビリテーション(11)

心臓リハビリテーションで重要なAT(嫌気性代謝閾値)を求めるのには、心肺運動負荷検査(CPX, Cardiopulmonary Exercise Test)が必要になります。
CPXは、心不全の患者さんに非常に有用な検査で、HFrEFやHFpEFといった画像的には全く違うような心不全患者さんであっても、CPXでは、最大酸素摂取量という共通の指標で心不全の重症度を判断することができます。また、心不全患者さんでは、運動した状態から安静の普通の状態に戻るのが遅いという、復元力のようなものもCPXで評価することができます。私は、正常への回復力の良しあしが、過労による心不全の増悪に高度に関与していると考えています。
 
CPXは基本的にはサイクルエルゴメーターですので、まず循環器疾患に対してサイクルエルゴメーターを安全に行えるということが必須になります。特に、運動負荷試験は、ATを超えて本来なら推奨されない運動負荷を一時的にかけることで、その患者さんの最大の運動耐容能を評価しますので、虚血や不整脈、心不全の増悪などが起こりうることを知っておく必要があります。
 
呼気ガス分析を行いながらサイクルエルゴメーターを行うと、CPXになります。また、負荷のかけ方がサイクルエルゴとは違います。虚血などの評価のためのサイクルエルゴであれば、負荷は25 or 50W毎に、2-3分毎に階段状に上げていくことが多いと思います。そのうえで、最大の運動か、十分に心拍数が上がった状態で心電図のST部分が虚血を示す変化をしているかどうかを評価していくと思いますが、CPXの場合には、まず、座った状態にして4分程度呼気ガス分析を続けて、VO2などが安定することを確認し、続いて4分ほどのウォーミングアップを行います。その後に、サイクルエルゴと同じように階段状ではありますが、もっと時間間隔が短く1分毎に負荷を10-30Wずつ上げていきます。10か15か20Wが多いと思います。どのペースで負荷を上げるかは、大体その人の運動の耐容能を予想して、10-15分程度で、最大負荷になるように上げていきます。私は、12分程度を意識していました。例えば、150Wまで行けそうと思えば、1分間に15Wずつ上げていきます。ただし、前回の記録がある場合には、できるだけ前回と同じペースで上げていくことが重要です。
 
さて、CPXで測定される数値の中で、最も重要なのは、peakVO2です。これが、心不全の予後をもっとも表現すると思っていますし、すくなくとも、HFpEFもHFrEFも同じ土俵に乗せれるのが、peakVO2です。
また、peakVO2は負荷をかける人のストイックさに多少依存はするものの、基本的にははっきりとした数値ででるので、明瞭だと思います。
ATに関しては、心不全では、peakVO2がATにすら達しない時や、オシレーションといって、呼吸中枢のコントロールが不全を起こしていて、VO2などが安定しないなどで決めれないことが結構あります。
心機能が悪くない、狭心症などの虚血疾患の患者さんであれば、慣れてくればいくつかの指標を合理的に判断してこの値と決めていくことができますが、心不全では、下記に示した5つの指標のうち、評価できるものから、その中で合理的な値とすることが多く、結構意見が割れる時もありますので、あまり固執することはありません。ある程度のATを評価して、基本的に心不全の人はBorgでリハすればいいと思います。
 

ATを決定する5項目

1.VCO2がVO2に比して増加開始する点
2.V-Slope法にてVO2-VCO2関係が45度以上に増加する点
3.VE/VCO2が増加せずにVE/VO2が増加開始する点
4.ガス交換比が増加開始する点
5.ETCO2が増加せずに呼気終末酸素濃度(ETO2)が増加開始する点