心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

心不全のすべて(8:心臓の収縮機構)

心臓は、組織としてみるとバネの性質を持っています。

心臓の筋肉を取り出して、棒状にするとバネになります(カエルの心臓で実験されています)。

棒状の心臓の筋肉を引っ張って放すと、自然にしている状態の長さよりも短く縮んで、元に戻ります。

また、長く引っ張れば引っ張るほど短く収縮します。もっともっと長く引っ張れば、ちぎれます。

 

心臓には収縮する機能がありますが、拡張期に引っ張れば引っ張られるほどに収縮性は強くなります。

つまり、拡張期の容積が大きくなればなるほど収縮力は増します。

  

フランク・スターリングの法則という心臓の根幹をなす法則があります。

犬の心臓を使って、心房へ血液を流し込んで、心房の圧をあげていくと心拍出量が上がるという実験です。心房圧は心室の拡張末期圧と等しく、さらに拡張末期圧の上昇は左室拡張末期容積の増加を意味します。

循環器の最も有名な実験の一つですので、医療関係者は一度目を通すことをお勧めします(S. W. Patterson and E. H. Starling. J Physiol. 1914 Sep 8; 48(5): 357–379. On the mechanical factors which determine the output of the ventricles
)。英語が苦手な方は、さらに進んだ内容も含めて、菅弘之先生が、ご自身の実験や論文を踏まえて開設されているものがいくつもありますので、一度検索してみてください。

 

フランク・スターリングの下降脚という有名な話題があります。

正常な心臓は、心房圧をあげると心拍出量は増えますが、ある心房圧を越えると心拍出量は低下すると現象です。

これは、心房の圧をあげる時間に依存しているようです。心房圧をゆっくりと上げる(追試実験では4分)と早く上げるより(1分程度)も心拍出量はあまり上りませんでした。ただ、4分でゆっくりあげても正常とおもわれる血液量にはなっています(人の換算で5-6l/分)。そして、この値は、フランクスターリングの下降脚の4分後と一致しました。

実験では、下降脚とはいいながら、最終的には正常の有効循環血流量と思われる血流量となっていますので、ゆっくりと圧を上がると心臓が順応しながら過剰な心拍出量を出さないようにしているのかもしれません。

(この実験には残念ながら容積に関する記載がないので、心房圧を早くあげた時とゆっくり上げた時の心室容積がどうなっているのかがわかりません)

 

心不全患者さんの不全心でも、この下降脚は存在しますが、それは、血行動態的な左右の4つの心房と心室の干渉現象で説明されます。

そもそも、不全心では、容積上昇にたいする心拍出量が増えなくなる点が、正常よりもかなり早く来ますので、もともと容積依存の収縮性の増強はあまり起きません。

心不全の状態で心拍出量がもっと必要と体が判断したときに、交感神経が心拍出量を増やそうと心臓を鞭打ち、レニン・アルドステロン系が体の水分量を維持するように働きますが、心臓は正常心ではないので、それらに反応できずに、心拍出量は増えません。

そうすると、心房圧の上昇する前提として、心室・心房容積の拡大が起こりますが、この際に重要なのが、心臓には心膜という急性の変化ではあまり進展しない皮に覆われているという事実なのです。

心臓が大きくなると、心臓のさらに拡張しようつする動きを心膜が邪魔をします。それも、4つの部屋を等しく邪魔します。それによって、拡張期の容積のわりに心房圧が高くなってしまいます。また、もともと右心系の容積は小さいのですが、それがおおきくなり、心膜の影響が出だすと、左室を圧迫し、本来の右と左の部屋の容積のバランスをも崩します。そうすると左の容積が相対的に減少します。すると、このタイミングで心拍出量が低下します。

これが臨床的にみられる下降脚の正体です。

フランクスターリングでもおそらく心膜を除去していないので、これが起こっているのかもしれませんが、容積の記述がないので、やはり、時間依存であるということ以外は確認できません。