心不全の診療をするのに、絶対に必要な生理学的な法則はいくつかありますが、その一つであるスターリング曲線についてお話ししていたいと思います。
スターリング曲線では、心室容積(ml) または、平均心房圧(または心室拡張末期圧, mmHg)を横軸にして、1回心拍出量を縦軸(ml)にすると下のような曲線になります。
この図でもっとも言いたいことは、前負荷を増やしていくと、1回心拍出量は基本的には増加するということになります。
この一文と図だけまずはおぼいていただければ十分かと思います。
ちなみに、この法則の一番初めは、単離した動物の心筋細胞をばねのように引っ張ると引っ張っただけ収縮性が強くなるという発見から始まりました。この心筋は収縮する時は基本的にばねと同じで、ひっぱっただけ強く収縮するというのは重要です。
さて、前負荷というのは基本的には拡張末期容積です。ただ、臨床で、拡張末期容積、特に急性に変化するその変化量を測定するのはかなり困難(というか無理)ですが、圧のほうは比較的容易かつ安定して測定できますので、臨床的には圧を使用します。そのため、圧と心拍出量の関係であるとの理解でいいと思います。ただ、その圧はあくまで容積変化を反映していることは覚えておかなければなりません。
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右房圧(上図では容積)を上げれば、右房圧が低い領域ではほぼ直線上に1回心拍出量は変化しますが、ある程度のところでは、右房圧当たりの心拍出量が変化は徐々に鈍くなっていき、右房圧が一定以上に上げすぎると心拍出量は下がるということを上の図は示します。最後の心拍出量が下がっている部分を下行脚といいます。下行脚については別に考察します。
さて、循環で考えると、まず点滴でも何でもいいので、まず静脈の血流量を増やすと、右房に返る血流量が増えます。すると、右房から右室への血液の移動がどんどんと増えます。増えた分は出ていきます。つまり、右室の心拍出量が増えます。すると、左房への流入する血流量が増えます。これにより、左室への流入する血液量が増えます。そして、左室からの拍出量がふえるということになります。