心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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降圧薬と発癌性について

(降圧薬と発癌)

2018年7月初めに、あすか製薬から同社が中国で製造している高血圧治療剤「バルサルタン錠『AA』」4製品に、発癌性のあるN-ニトロソジメチルアミンが混入していたために、自主回収を行ったと各メディアが報じました。

これは、ありえないことで、なぜN-ニトロソジメチルアミンが混入したのか重大な問題だと思います。

もちろん、原薬のバルサルタン自体には発癌性はないとされていますので、先発品のディオバンを含めほかのバルサルタンジェネリックを服用されている方は、ご安心下しさい。

一時期、ARBに発癌性を疑われましたが、アメリカのFDAということろがしっかりと検証し、否定されています。

 

さて、発がん性物質の混入とは別に降圧薬などの薬剤には以前より発癌との疑いがかけられては否定されということが繰り返されています。

 

基本的に、現時点では降圧薬での発がんの心配はしなくてもいいと思います。

カルシウムチャネルブロッカーで乳がんの発生が若干増えているという研究はありますが、もちろん、一部の臨床研究で、他ではみられていなかったりします。

降圧薬を必要としている人にとっては、乳がんが発症し、それで死亡確率と、服用していることによって動脈硬化性疾患の罹患が減少して、それで生存できる可能性を比較すると後者のほうが圧倒的に多くなると推測されます(発症までは一つの研究でわかりますが、死亡までいくと複数の臨床研究を合わせての推測になります)。

 

ただ、この問題は非常に難しい問題で、

そもそも発がんのメカニズムがかなりいろいろわかってきたとはいえ、完全に解明されていないこと。

もともと、塩分摂取や肥満、運動不足などの生活習慣の乱れ自体が発癌と関係があること。(これは、アメリカ(ハーバード)、カナダ、日本などで同じようなデータがでています)

基本的に臨床研究が、ある病気A(発癌)とある状態B(高血圧)などに関係があるという統計学的な結果しか出せないこと。

などが原因です。

 

そのため、癌の原因はBであるといった因果関係は、臨床研究だけでは示せないということにあります。(発癌させることを目的に何かを飲ませることができれば、因果関係を示せますが、倫理的に絶対にしてはいけないことです)

臨床研究で、どうやら対象としたグループでAとBは関係がありそうだとなったときには、他の研究によって、この因果関係を調べていきますが、発癌などの遺伝子レベルの多段階の異常がかかわり、さらに発症まである一定の時間が必要で、発癌の前段階のようなものがあまりはっきりしていない(前がん病変がるもののもちろんありますが)場合には、これを証明することはかなり大変です。

 

大変だから、ほっといてもいいとわけではもちろんありません。現時点では、アメリカのFDAや日本のPMDAなどがこれらをしっかりと管理していて、因果関係はわからないが、薬剤と有害事象に相関がある段階で、なんらかの処置がとられますので、ご安心ください。

(武田薬品のアクトスという糖尿病治療薬は、膀胱がんと相関があるというスタディがあるため、かなりFDAに何度も資料を提出させられていますが、関係ないとの結論と、もしそうであっても、糖尿病治療により予防される疾患のほうが明らかに多いとのことで発売は継続されています)

これらの問題に関して、製薬会社と医師・役人の癒着を心配される方もいらっしゃるかもしれませんが、何かが混じっていた今回のような事件なら我々にはわかりませんが、今の臨床試験、特に治験は結果を変えられないような複数の仕組みがあります。そして、データは事前に、どのデータを出すか決められており、有害事象は、薬剤と関係ないと思われてもすべて発表されています。この結果を世界中の医師がみますので、不正は、治験に関しては不可能です。

ただ、一部の施設内で行われた試験や有力な人間を中心とした臨床研究の場合は残念ながら、不正を行おうと思えば決して不可能ではないことも事実です。ただ、こういうことが行われうる臨床試験は、信頼性の低いものとして扱われます。

先般ディオバンで起きた一連の臨床研究の不正も、臨床研究自体が医師側が治療を受けている人かがわかっていて、そのうえで、治療効果を評価していく臨床研究のモデルでしたので、もともとそれほど大きな評価はされていなかったことも確かです。(主治医が治療を受けている人だから結果に多少の手心を加えることは可能)