心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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高血圧とは。そもそも血圧とは何か。治療はした方がいいのか。(24)

(高血圧に対するワクチン治療)

 

Hironori Nakagami, et al. Vaccines 2014, 2(4), 832-840; Peptide Vaccines for Hypertension and Diabetes Mellitus

Nakagami Hironori, et al. Journal of Hypertension: September 2016. OS 17-05 DEVELOP A THERAPEUTIC VACCINE FOR ANGIOTENSIN II

 

高血圧が維持される過程で、レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系は、重要な役割をはたしています。

生物が進化する過程で塩分が多くあった海から陸上へ上がった時に、塩分を保持するということは非常に重要なことになりました。そして、塩分を再吸収して、体に必要な塩分濃度を維持する機構というものが発達しました。その機構がレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系です。

現在、重要な塩を安価に作り、好きなだけ摂取することが可能となりました。現在の社会システムの中で、人間にとってレニ・アンギオテンシン・アルドステロン系はほぼ不要なシステムとなってしまったようです。

レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系は適切に働けば、過剰な塩分摂取により抑制されます。しかし、塩分摂取により臓器のレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系は逆に活性化するといわれ、食塩感受性が低いと考えられる白人男性の高血圧患者の中ではこのシステムの活性化がみられます。また、この系を抑制する薬剤が、ほぼすべての国で降圧薬として有効に処方され、降圧ができているをみても、このシステムが高血圧の維持に重要な要素であることは、間違いないと思います。

 

レニンやアンギオテンシンIに対するワクチンは以前に存在して、ラットなどでの有効性は確認されていたようですが、ワクチンに反応した抗体が、過剰に働き腎臓などの多臓器に作用して自己免疫性腎症を発症させたりして、人間を対象とした研究にまではいかなかったようです。

今回、大阪大学の森下先生のグループとアンジェス株式会社は共同して自己免疫失疾患を起こさないようなアンギオテンシンIIに対するワクチンを開発し、マウスでの研究では、長期の有効な降圧をしめせたと2016年に報告されました。

アンギオテンシンII自体はもともと生体内にある蛋白ですから、これに反応する抗体は生物の体内にはありません。あったら、塩分を保持できずに絶滅していると思います。そのため、アンギオテンシンIIに対して働く自分の抗体を増やすためには工夫がいります。(感染症などの病気のワクチンでは、反応させたいウイルスなどはもともと体にいないので、病原性をなくした抗原を使えば、ワクチンになります)

ワクチンは、アンギオテンシンIIに、別の蛋白をくっつけることで、このアンギオテンシンII複合体として免疫細胞に取り込ませて、アンギオテンシンIIの部分に対する抗体を放出させます。(人間は抗体のセットをものすごい数持っていて、必要な時にそれを増やしたり、高い濃度で維持したりします(これを免疫がついた状態といいます))

感染症のワクチンと違って、本来自分の体にあるアンギオテンシンIIに対する抗体を増やすようにしています。ここで重要なのは、自分の他の細胞に対する抗体を作らせないことですが、現時点でこのような自己の細胞に対する抗体の増加は認めず、有効な降圧効果を示しているとのことです。

ただ、アンギオテンシンIIへの抗体といっても、どの部位を認識する抗体となるかは人によって多少違うと考えられます(アンギオテンシンIIはアミノ酸8個と小さいのでそのリスクは低そうですが)。そのため、偶然、アンギオテンシンIIの認識部位と似た部位が、例えば腎臓の糸球体とかにあった場合には、自己免疫性腎炎になる可能性はなくはないと思います。

(このような疾患はいくつかあります。例えば、カンピロバクターに感染したときにできる抗体が、自己の神経系の細胞の抗体認識部位と似ているためにギランバレーという病気が発症することがあります。)

現時点で、オーストラリアで人に対する臨床試験が行われています。

新しい治療の良い結果を期待したいところです。