心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

高血圧とは。そもそも血圧とは何か。治療はした方がいいのか。(4)

(塩分摂取と生体の反応)
特に高血圧の状態では、塩分の摂取に対応して、腎臓が血圧をコントロールしていると説明しました。

ここで、塩分排泄の正常な反応を説明します。
正常では、過剰な塩分摂取時には、腎臓を中心として血圧をあまり変化させずに過剰な塩を尿として体外に排泄します。

(塩分摂取による腎臓・体液の変化)
まず、塩分は腸管のENaCといわれるナトリウムのチャンネル等を通して血管(門脈)へ吸収され、肝臓を通過して、心臓へ到達し全身に分布します。
この時に塩分摂取後の血液は、その前に存在している血液よりも少しナトリウム濃度が高くなっています(測定できませんが、理論的にはそうなっているはずです)。
するとどうなるかというと、臓器(の間質)と血管の物質のやり取りは、毛細血管で行われますが、毛細血管の内側と外側のナトリウムの濃度は等しくなるように水分が動きます。すると、ナトリウム摂取後に、もともとの血管内のナトリウム濃度より若干ナトリウム濃度の高い血液が流れてきますので、ひとまず、臓器間質の水が血管内に移動することで、静脈の血液量が増加します。すると、短期的には静脈から心臓に戻る水分量が増えると、そのまま心臓から出ていく血液も増えます(ただし、あくまで短期的な変化で、すぐに是正されます)。
すると、腎臓へ流れ込む血液量も増えます。これが刺激となって、腎臓から分泌されるレニンというホルモンが低下します。
このレニンというホルモンは、最終的にアンギオテンシンII,アルドステロンという、血圧をあげたり、腎臓で塩分の再吸収を促して、体に塩をため込もうとするホルモンとなります。そのため、レニンが低下するということは、血圧の上昇の抑制、塩分の再吸収の抑制という結果をもたらします。
すなわち、塩分摂取で増加した一過性の血管内の血液の増加による血圧の上昇を緩和させるように働きます。
また、アンギオテンシンIIは、腎臓の中の血流の分布をコントロールします。これは、腎臓の中心のほうが塩分を積極的に再吸収する機構が発達していて、外側のほうが、塩分は素通りさせます。
アンギオテンシンIIは塩分を再吸収させるために、腎臓の中心に血流を集める作用を持っています。そのため、アンギオテンシンIIが作用していない状態であれば、腎臓の外側の血流が維持されるため、塩分の排泄が促進します。
しかし、尿量が増えるかどうかは、次のバソプレシンというホルモンが決めています。


(交感神経とホルモンの変化)
ほかにも、動脈の血液量が一過性に増加すると、収縮期の血管径の増加が、血液が増加した分だけより大きくなります。一部の動脈(頚動脈や大動脈など)では、この大きさの変化を感知する受容体があり、血液の増大によって、交感神経が減弱して、血圧を下げたり、レニンを減らしたりする変化をもたらします。さらに、心臓にも戻ってくる血液量の変化を感知する受容体があり、心臓に戻ってくる血液が増えると心臓が張り、それを感知して、塩分と水分を体の外に排出させるように働くホルモンを分泌します。このホルモンは血管を拡張させる作用もあり、心臓に戻る血液を減少させる効果もあります。
このように、レニンなどのホルモン、交感神経、心臓のホルモン(ANPなど)などが、一時的に変化することで、適切に塩分を排泄するように体は対応します。

一部利尿を促すホルモンはありますが、全体的には塩分を過剰に摂取したときに、体は水分を外に出さない=利尿を減らすことで塩分を薄めます。
これは、異なる健康な若い男性に、塩水と真水をそれぞれ1.5l程度ずつ飲ますと、塩水を飲んだほうは、明らかに尿量が減ることからもわかります。
(この実験は、一昔前は生理学の体験実習でよく行われれていました。今はどうかわかりませんが、多少でも体に負担がでるということから、実施しないほうがいいのかもしれません)
塩分が上昇すると、血液の浸透圧が上昇します。すると、バゾプレシンという抗利尿ホルモンが上昇し、このホルモンは腎臓に作用して尿量を減らし、血管を収縮させて血圧を上昇させる効果があります。また、喝中枢というものも刺激し、飲水行動を促します。

すなわち、塩分摂取には、短期的な血液量の上昇に伴う血圧の上昇を防ぐ機構があるため、すぐに血圧の上昇となるわけではありません。しかし、この塩分の過剰状態が持続的に起こると、これらの機構は徐々に働かなくなったり、鈍化していきます。

(高血圧患者では)
高血圧の患者の中(白人)には、交感神経の活動性やアンギオテンシン、アルドステロンなどの血中濃度が上がっていると報告されています。
推測ですが、これは持続的に塩分濃度を下げるような機構が、徐々に鈍化するにともない、さらなる塩分の過剰状態に対応すべく、定常状態でそれらを高く保つことにより、さらなる塩分過剰の瞬間的な変化に対応しようとしているかもしれません。