血流量心不全とは:
何らかの心機能の障害、または、全身の需要の亢進により、有効な循環血流量を維持できない、または、有効循環血流量を維持するために心臓に何らかの負荷がかかっている状態を心不全といい、
この状態が安静時に起こっている場合はもちろん、同年齢程度の平均的な人が行う労作によっても、心臓の負荷が過剰となり、心内圧の上昇による何らかの症状が出ている状態、また、場合によっては有効血流量が不足するために症状を合併している状態を、心不全または心不全症候群という。
少しずつ解説していきます。
前回:
何らかの心機能の障害 → なんでもいいですので、とにかく心臓に異常がある。
全身の需要の亢進→重度の貧血と、甲状腺機能亢進のクリーゼという緊急事態、脚気など
有効循環血流量は、動脈系を流れている血流の量です。いくら体の中に血液があっても動脈を流れていないと意味がありません。有効循環血流量と書いているように、大事なのは、フロー、流れです。心臓から出ていく血液の単位も、ml/分とフローで表現しています。
動脈を流れている血液が、体の臓器や筋肉などが求める(需要)酸素を十分に供給することができている状態が、有効循環血流量が維持されている状態です。
この血流量を維持するために人間の体は、いろいろなセンサーとそれに対して反応する機能で調整しています。
ショックなどの時には、有効循環血流量が低下して血圧が下がっていることが多い(診療科によりますが)。
(ショックは、何らかの原因で血圧が下げっている状態。一般的には平均血圧60mmHg以下か、収縮期血圧 80mmhg以下。普段よりどれだけ下がったらというのもありますが、ショックの時に普段の血圧がわかることは少ない)
そのため、ショック時には、大動脈や頸動脈、腎動脈などにある交感神経を普段は不活性化させて、必要な時に不活性化を阻害することで交感神経を活性化させているセンサーがあるのですが、それが反応して、体の交感神経系を活性化させます。
その交感神経の刺激が、血管に対しては、動脈の抵抗血管を収縮させて血圧を維持し、また、静脈に対して、特におなかの中に少し余分にプール(本当はプールではなく、余分に循環させている)している血液を絞り出すようにして、心臓に返る血液を増やして、また、普段余分に循環させている部分をなくすことで、必要な循環を維持します。心臓に返る血液が増えると、帰ってきた血液は出ていくので、循環血流量の維持に寄与します。
また、心臓に対して、交感神経の刺激は、心臓の拡張力と収縮力を上げることで、1回の収縮で心臓から出る血液量を増やして、さらに、心拍数を上げることで、時間当たりの心拍出量を上げています。
(実は心臓は拡張に7割程度のエネルギーを使って、収縮は、伸びたら縮むゴムのようにエネルギーをあまり消費せずに収縮しています)
さらに、副腎に作用して、アドレナリンやノルアドレナリンなどの血管を収縮させたり、心拍数を上げたり、心臓の収縮性(拡張+収縮力)をあげたりするホルモンを分泌させたりします。
腎臓は腎臓の血流量の低下に反応して、レニンというホルモンを分泌して、レニンがきっかけとなって、アンギオテンシンIIというホルモンを増やすことで、血管を収縮させたり、腎臓での水分・塩分の排泄量を下げて(尿量を減らす)、体液量を維持します。このレニンの分泌は交感神経の刺激によっても起こります。
また、脳から分泌されるバゾプレシンというホルモンも、血管を収縮させ、腎臓での最終尿を減らすことで(水を大量に再吸収する)で、循環する血液量を維持します。
心臓は、血流を保持して、腎臓は血液量を保持するように働きます。
大きくは、この交感神経の刺激とそれに次ぐくレニン⇒アンギオテンシンII、バゾプレシンの働きによって、人の循環血液量は維持されています。
心不全とは、この循環血流量の維持の過程で、心機能に不全があるため、心臓に過度な負担がかかりながらもそれを維持している状態か、または、心臓がその負担に耐えられず需要を十分に満たす血液を供給できていない状態のことです。
つまり、心不全は、心機能の不全から生じる循環の不全を基礎にし、それにより起こる症状を心不全症状としている症候群なのです。