心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

高血圧とは。そもそも血圧とは何か。治療はした方がいいのか。(17)

(ACE阻害薬)

この薬剤は、何度か出てきているレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系という塩を体に貯めて、血管を収縮させるということを目的としている系を阻害します。

レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系には、大きく血管内のレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系と組織内のレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系という二つがあり、血管内と組織内のレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系とは独立して動きくことがあります。

腎不全や心不全には組織内レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系が重要で、さらに言うと脳内(レニン?)・アンギオテンシン・アルドステロン系もあり、脳内のアンギオテンシンIIは、尿量の最終調整因子であるバソプレッシンの分泌調整を行ったり、アストロサイトに作用して、高血圧になる血圧のセットポイントの異常に強く関係していたりします。

 

主に血管内のレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系の説明です。

まず、腎臓の傍糸球体装置ということろから、レニンが産生されます。この産生の刺激は、交感神経の活性化と傍糸球体装置は尿細管(ヘンレ係蹄上行脚という場所です)と接して、尿細管内のクロール(NaClのClのほう)の濃度低下により分泌が増えます。Naの濃度ではなく、Clの濃度センサーということです。(様々な研究で、血中ならびに尿中Cl濃度が、Na濃度よりも心不全などの循環器疾患の予後と関係があるといわれていて、実はKey ionはClなのかもしれません)

このように、交感神経が更新する、クロール濃度が低下するというのは、主に循環する血液量が減少したときに起こります。体は出血や脱水時に体液を外に出さない、血圧を上げるという方向に働きます。原始より生物は出血から生き抜くための構造が体にあり、今の現代人のような生活を想定はしていないのです。

 

さて、分泌されたレニンは肝臓で十分にあるアンギオテンシノゲンというペプチド(アミノ酸がつながった鎖のようなもの)を、ちょきりときって、アンギオテンシンIというものを作ります。ただ、レニンとレニンの前駆体のプロレニン自体も生理活性を持っていて、血管の収縮などに寄与します。

ついで、アンギオテンシンIが、ACE(アンギオテンシン コンバース エンザイム、アンギオテンシン変換酵素)という酵素によって、さらにきられアンギオテンシンIIが作られます。さらに、別の酵素によってアンギオテンシンIII,IVなどもあるのですが、それはさておき、アンギオテンインIIが強い生理活性を持っていて、腎臓で塩分の吸収を促進する方向に持っていき、さらに抵抗血管を収縮させ、血圧を上げる方向に持っていきます。さらに、アンギオテンシン系は、糸球体の前の動脈(輸入細動脈)と後ろの動脈(輸出細動脈)を、後ろの動脈のほうを強めに、両方締めるため、糸球体のろ過量は上昇します。さらに、かなり細かい話ですが、腎臓の中心に近い糸球体への血流分布を上げることで、さらに塩分の再吸収を亢進させます(腎臓の外側の糸球体は塩分の再吸収の機構が不十分なため、外側の尿は塩分濃度が高いという特徴があります)。

また、アンギオテンシンIIは、副腎の皮質という部分に作用してアルドステロンの分泌を刺激し、遠位尿細管のさらに遠位での塩分再吸収を増やします。

 

要する、レニンは交感神経と塩分濃度の低下によって刺激され、塩分と水分の再吸収を行うように調整します。

すなわち、塩分を過剰に摂取したときには、塩分濃度があがるため血管内のレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系は抑制されています。以前、ご説明したとおりです。

ただ、高血圧というのは、正常に働く機能が、慢性的に作用しなくなる病気です。本来、塩分負荷時には、このような機構がはたらき血圧を上げずに塩分を排除するはずですが、これが機能不全になっています。

白人男性では、レニン・アルドステロン系が活性化しているといわれますが、日本人は逆に低レニンとなっています。

しかし、低レニンながら、この系が機能亢進を起こしていると考えられており、効かないかもしれないと思われていたレニン・アルドステロン・アンギオテンシン系の薬剤がきっちりと作用します。

(ある程度塩分摂取があると効きますが、十分に塩分制限している状態では効かないとされています)

また、塩分摂取により血管内レニンは低下するものの、組織内レニンは亢進しており、また、ややこしいですが組織内のレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系は独立して、細胞の肥大化や間質繊維の増生を伴い、臓器不全を進行さるといわれています。

 

ややこしいですが、高血圧の時には、低レニンであっても、昇圧系ホルモンであるレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系を押さえることで、血圧は下がるのです。

その中でも、ACE阻害薬は、アンギオテシンI→アンギオテンシンIIの化学式を抑制しますので、アンギオテンシンIIが減少して、降圧効果を示します。

ただ、実は、アンギオテンシンI→アンギオテンインIIにはキマーゼという酵素もあって、ACE阻害薬だけがこの化学式の酵素ではなく、抜け道があるので、すべてを押さえているわけではありません。

(もともと、一つの薬剤で、一つのすべての酵素反応を止めれるわけでもありませんが)

 

さて、前回、ACE阻害薬は、他の降圧薬と比較して、心筋梗塞は減らしそうだというデータを示しました。

これにはACE阻害薬の別の2つの効果効いている可能性があります。

一つは、ACEは実は別の化学式の酵素にもなっていて、キニンカリクレイン系というのですが、ACE阻害薬が血管拡張などの作用を持つブラジキニンの量を増やして、血管拡張などの良い効果をするのと、MMPという酵素が血栓などを形成する効果があるのですが、これの亜鉛中心というコアの部分に作用して、抗凝固作用を示すといわれています。そのため、心筋梗塞が少し少ないのかもしれません。

 

さらに、先ほどお話ししたように組織内レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系が、特に心臓と腎臓で臓器障害を起こすという話をしましたが、このACE阻害薬はこの組織内にも良い効果を示します。そのため、心不全や腎不全では、血圧が高くないのに、この薬を処方されます。処方理由は、このように組織内レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系をおさえて、少しでも臓器の障害を遅らせようとしています。また、血行動態的にも、抵抗血管を弛緩させて心臓の力学的な負担を軽減させたり、腎臓の輸入細動脈とそれより強く絞められている輸出細動脈を緩めることで糸球体にかかる圧力を軽減して、腎臓を長持ちさせようとしています(このあたりは、またそれぞれ腎不全・心不全で述べます)。

 

副作用は、実は多いのは、ブラジキニンの増加による空咳です。2・3日でなくなることもありますが、それ以上続くときは、ACE阻害薬の服用は厳しいかもしれません。ただ、ACE阻害薬の中でも、空咳の起きやすいものや起きにくいものがあるので、また、主治医と相談ください。

あとは、腎不全は少量からゆっくり上げていかないと、糸球体内圧が急にさがると尿の生成の一番初めの肝心要の毛細血管からボーマン嚢への水・アルブミン以下の分子の移動が起こらずに一気に腎不全症状・無尿・尿毒症が出てしまいますので、特に高齢で腎機能がやや悪い人は、注意してください。

他には、血管の拡張による血管浮腫という病態で、これもブラジキニンによって血管が浮腫が起こって、いきなり口とかが、腫れてきます。最近の薬ではあまり起こりませんが、ごくまれに起こることはありますので、症状があって時にはすぐに服用をやめて主治医に相談してください。

 

脳内のアンギオテンシンが、実は高血圧の発症に大きくかかわっているなど、血圧とこの系を話すときりがなくなってきますので、一旦ここで終わります。脳内アンギオテンシンの話はまた別にします。