心不全は、何らかの原因で機能低下した心臓が原因です。
では、心機能が良い、悪いはどうしたらわかるでしょうか。
一言でいうと、心臓、特に心室がもっとも拡張したとき(収縮する寸前)の、心室の中の圧力が上がらない心臓は、悪くないといえます。
心臓は、大きく右の部屋(右心:右房と右室)と左の部屋(左心:左房と左室)にわかれています。心臓は、考える病態ごとに、右と左に分けて考えたり、上と下に分けて考えたりと、状況状況でモデル化して考えていくとわかりやすいです。
今は、右と左にわけます。
血液は、臓器を通過して静脈をながれ、静脈がどんどん合流して、最終的に心臓の右の部屋に戻ってきます。右の部屋に帰ってきた血液は、拡張期にぐっとため込んで、心臓が収縮すると(収縮期)、右の部屋から出た血液は肺へいって、肺をながれて、左の部屋に行きます。そして、ぐっとため込んで(拡張期)、再度心臓が収縮すると(収縮期)左から出た血液は全身を循環します。
これを繰り返すわけです。
心臓は収縮する臓器なんですが、エネルギーの使い方を見ると7割以上は心臓を拡張させるためにエネルギーを使っています。
もっと正確に言うと、心臓は柔らかくなることに多くの労力を割いています。どのようにしているかというと、心筋の細胞の中のカルシウムを心筋の収縮機構であるアクチン・ミオシンという部位から離すことにがんばっているのです。
このアクチン・ミオシンといった収縮機構にはトロポニンCという蛋白がくっついていて、そこにカルシウムがくっつくと心筋の収縮が起こります。逆に言うと、引き離すと拡張します。細胞内のカルシウム濃度を下げて、離れさせようとするのです。
(アクチンとミオシンの滑り込み仮説については、また、別項目でお話します)
心筋細胞には、筋小胞体というカルシウムの貯蔵庫があるのですが、この小胞体にカルシウムをいれる機構に重要なホスホランバンという蛋白に作用して、SERCAという入り口からカルシウムを取り込ませる過程を活性化させるのに、エネルギーを使っています。
実は、強心薬(ドブタミンなど)も、ホスホランバンのリン酸化(=カルシウム取り込み活性化)やトロポニンCとカルシウムが離れやすくするなど拡張させる方向へ持っていく作用があります。ほかには細胞内のカルシウム取り込みを上げるので、ある意味、細胞内のカルシウムにメリハリをつけるというのが強心薬の仕事といえます。
さて、心臓が柔らかくなれるとどうなるのかというと、心臓から戻ってくる血液が戻りやすくなるのです。
全身を還流した血液は右室に戻ります。血液は、液体ですから、圧力の高いところから低いところに流れます。そのため、右室が血液がかえってくる拡張期にできる限り圧力を下げることができれば、体の静脈の圧が低くてすみます。
心不全の症状の多くは、この拡張期に圧がさがらなくて、多臓器の静脈の圧力が上がることによる症状なので、心臓が柔らかくなり、しなやかに拡張できれば心不全による症状が起こりません。
心臓が圧を上げずに拡張して、血液を受け取れたら、心不全による症状は起きない。すなわち、悪くない心臓といえます。
もちろん、心臓が拡張期に圧があげなければいいが、上がらざるを得ない原因があります。
次回は、拡張期に圧があがってしまう理由をついて説明するために、心臓の発生と形について説明します。