心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

高血圧とは。そもそも血圧とは何か。治療はした方がいいのか。(3)

 

(塩と腎臓と血圧)

 

血圧を上げる、下げるというのにいくつかの要因があります。

高血圧の中には、何かの良性腫瘍などである血圧を上昇しているホルモンが高いとか、腎臓の血管が高度に狭窄しているなど明らな原因がある場合や、喫煙など血管を硬化させるような要因があり、血管不全が先に来て、高血圧となるような病態もあると考えられます。

そういった明らかな原因がないいわゆる本態性高血圧患者の安静時の血圧の制御をしている主な要因は、電解質と腎臓だと考えます。

以前行われたINTER SALT研究(BMJ. 1988 Jul 30; 297(6644): 319–328. )の中で、塩分を極端にとる民族と極端にとらない民族では、高血圧の罹患に大きな差があり、その後、塩分を1日2g以下の民族では高血圧の患者はいなかったと報告されています(Mancilha-Carvalho JJ, et al. J Hum Hypertens. 1989; 3: 309-14.)。

同じ高血圧患者でも、高齢者では収縮期血圧が高く、若年者では拡張期血圧が高いと,少し話しましたが、INTER SALT研究(BMJ. 1988 Jul 30; 297(6644): 319–328. 下図1)で、統計学的に年齢と性別、また、年齢・性別・BMI・アルコール摂取量で調整したときに、塩分摂取と収縮期血圧は有意な相関を認めており、また、極端に塩分摂取が少ない4民族を除いても塩分摂取量と収縮期血圧には有意な相関を認めております。

 

 

f:id:KenzyN:20180717182129p:plain   図1. INTER SALT研究(BMJ. 1988 Jul 30; 297(6644): 319–328.より改変

 

 

ただ、この論文では、降圧薬を内服している患者が含まれているようですが、私が読んだ限りでは、何%が降圧薬を服用しているのか明示されていないため、解釈にはかなり慎重な対応が必要です。

なぜなら、のちに示しますが、降圧薬は基本的に高血圧患者が低い血圧でも十分塩分を排泄させる効果がありますので、高血圧患者が降圧薬を飲んでいれば、このデータは根本が揺らいでしまうからです。ただ、今回の示している内容は、そういう状況を含めても、塩分排泄と収縮期血圧は相関している(降圧薬がなければもっと強く相関するはずである)と考え、参照としています。

 

さらに、塩分制限の降圧に対する影響をみた、最近のメタアナリシスでは、減塩による降圧を認めています(He HJ et al. BMJ. 2013 Apr 3;346)。これらの結果から、減塩と降圧には関連があると考えられます。

 

(コラム:InterSalt研究では、食塩摂取と血圧が極端な例を除けば関連がないとの結果を示すものとしてしばしば引用されているようです。一つの論文には、複数のデータが載っていますので、自分の都合のいいように解釈される可能性があります。少なくとも引用するのであれば、その論文を全文(英語か、日本語に訳されていればそれでもいいと思います)読んだうえで、限界性などを十分に考慮に入れて、引用していきたいと考えています)

 

 (減塩と腎臓の関係)

 

この理由の根拠として重要となるのが、圧-利尿(ナトリウム排出)曲線です。これは、ナトリウムの排泄量(=摂取量)と平均血圧の関係をみたものです。

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高血圧のない人の正常な腎臓であれば、日常摂取する範囲の塩分を排出するために、血圧は上がらないと考えられています。

しかし、日本人に多い、いわゆる塩分感受性高血圧の素因を持つ人や、非感受性でも何らかの原因(昇圧に関与するホルモンが少しでも高い、血管が硬くなってきているなど)で血圧が上がりやすくなっている人に関しては、平均の血圧と腎臓の塩分の排泄は、上図のようなSigmoidカーブとなりますが、一般的な塩分の摂取範囲では1次関数の関係がみられます。

一定の食塩をとるとそれに伴って血圧が上昇しているのがわかります。もちろん、塩分1gあたりに上昇する血圧には、個人差、または、民族差がみられますが、少なくとも塩分摂取により血圧が上がることは確かです。

食塩非感受性といわれる人は、塩分摂取あたりの昇圧が少ない人であり、前述のメタアナリシスの結果からもわかるように大部分の人は多かれ少なかれ、塩分摂取により血圧が上昇します。

 

ちなみに、ここで重要なのは、腎臓が平均血圧をコントロールしているということです。平均血圧が、塩分排泄に必要な要素だからです。ですから、平均血圧が決まったら、その次に、その個人の血管の弾性などによって自然と収縮期血圧と拡張期血圧が決まります。

日本では、拡張期血圧は軽視されているように思いますが、若年者の高血圧では、拡張期血圧の上昇がまず見られます。その後、血管の弾性の減退などによって、収縮期血圧が上昇し、拡張期血圧が低下するというような経過をたどりますので、拡張期血圧が上昇してきたら、まずは高血圧であるということを意識することが重要です。