感染性心内膜炎(IE)の診断は、疑うことから始まります。
人工弁やペースメーカなどの方に呼吸器や消化器感染症状のない発熱などの感染症状があれば、初めから選択肢に入る可能性は高いと思います。しかし、特に弁膜症の指摘のない人が発熱しただけでは、なかなか診断のFirst lineに乗ることは少ないと思います。
First lineには乗らないものの、血液検査やCTなどを一通り行っても感染源がはっきりとしない、ただ、細菌感染ではありそう。さらに、プロカルシトニンなどからは菌血症状態でありそうであれば、鑑別の列に上がってくると思います。
IEの診断には、私が医師になる以前からあるDUKE基準が用いられていて、循環器内科医はDUKEに合致するかどうかにより診断を進めていくことになります。
DUKE基準は、最終的な確定診断を、心内膜炎が起きている場所の疣贅や疣腫(末梢に飛んだものでも可)から病原微生物が検出されるか、組織学的に活動性の心内膜炎があることが証明されることとしています。ただし、これはかなり限られた状況での確定診断ですので、実際の臨床に合わせていくつかの基準を組み合わせることで診断とすることにしています。
そのいくつかの基準を、IEに対する特異性から、大基準と小基準に分けたうえで、IEを疑う患者に対して、2つの大基準とそれを補足するような形で小基準を複数組み合わせて診断するような形になっています。
大基準はIEの原因となることが多い菌が血液内にいる(菌血症)状態であることが一つで、もう一つが心臓の構造物に感染が起こっていることをエコーを中心とした方法で証明するということになります。
菌血症で、弁に疣贅がついていたりするとIEでしょうという感じです。
ガイドラインでは、IEになりやすい菌、血液培養の取り方のような感じで記載がされています。
IEになりやすい菌としては、連鎖球菌や、連鎖球菌から独立した腸球菌、ブドウ球菌があげられます。連鎖球菌に比べてブドウ球菌は弁などの破壊の力が強いため、ブドウ球菌によるIEではほぼ外科手術は不可避であると考え、連鎖球菌の時よりも一層備える必要があります。
また、どのような形で血液培養をとればいいのかも指定されています。持続感染の必要があるとされていて、12時間以上あけて2回陽性か、もしくは3回中3回か、4回中3回陽性で、血液の採取は時間的に最初と最後を1時間あけるように言われています。
抗生剤が投与されているとその抗生剤が効く菌は血液培養では陰性になるので、12時間以上あけて2回陽性の基準に従おうと思うと抗生剤の投与が遅れます。これは、心エコーなどで何かIEを疑う疣贅のようなものがあるけど、IEかな、どうかなというときくらいしかできないと思います。
普通は少しでも早く抗生剤を投与したいと思いますので、できれば、好気と嫌気の2種類セットをまず2か所からとり、さらに1時間程度あけて2か所とって4回とするのが最も現実的かと思います。1時間くらいあれば、初回検体のグラム染色ができている可能性もあるので、投与する抗生剤をグラム染色を参考に調整することができます。
また、カテーテルからの逆血による培養はしてはいけません。カテーテルを入れるときに一緒に取るのはいいと思います。ちなみに、カテーテル感染を疑うときには、カテーテルの逆血も培養検体として評価したほうがいいと思います。
心内膜に疣贅があるかどうかは、経胸壁心エコー(TTE)で明らかにあるものに関しても他の弁や部位に疣贅がないとは言えないので、経食道エコー(TEE)をしたほうがいいと思います。もちろん、経胸壁で分からないときには、全例TEEを行わないと除外はできないと考えます。大動脈弁や僧帽弁などだけではなく、TEEでは右心系のペースメーカリードも基本的には心腔内すべて評価可能です。ただ、結構技術というか、慣れのようなものは必要です。私、結構TEE得意でしたけど、ペースメーカリードの診断はやったことがある人しかできないかもしれません。
エコーでは疣贅だけではなく、弁の破壊所見も有意な所見となります。疣贅がはっきりしていなくても、例えば僧帽弁の前尖のど真ん中に穴が開いて逆流が吹いているなどの所見は通常ではありえませんので、今かどうかまではわかりませんが、少なくともIEによりできた異常であることがつよく疑われます。
最近IEの感染の有無に関して、PETでの評価の有用性が固まりつつあります。18F-FDG-PETは、心サルコイドーシスの活動性の診断に有効で、比較的循環器になじみのある検査だと思います。心筋は、他の組織よりもブドウ糖の取り込みが多いとはいえ、2前後ですので、感染の時の取り込みとは桁が違うとまではいかないこともあるかもしれませんが、まぁ、不全心筋ではさらに少し高くなるものの鑑別は可能だと思います。唯一活動性のあるサルコイドーシスであれば、感染かサルコイドーシスか難しいかもしれませんが、この状態の合併は相当レアなケースだと思います。
小基準に関しては、素因、発熱、血管現象、免疫学的現象、微生物学的所見の5項目に分かれています。小項目は、IEでみられる可能性がある症状ではあるが、IE以外でみられることが多い症状・所見ということになります。
素因に関しては、弁膜症や短絡疾患などの何らかの心疾患があったり、菌血症を起こしやすいような静注薬物を常用しているようなものを想定されています。個人的な見解ですが、糖尿病やアトピー性皮膚炎、歯周病治療後は、素因に入れてもいいのではないかと思っています。
血管現象という項目に関しては、疣贅が心臓以外に飛散して血栓塞栓症状を起こしたり、動脈壁に付着して感染性大動脈瘤を起こしたりすることによる所見や症状ということになります。これらは、もちろんIEだけが原因ではないので、小項目の一つということになります。
免疫学的な所見は、あまり見たことはありません。
陰性桿菌などはIEの原因となることは、すくないもの、特に糖尿病では起こりえますので、小項目ということになります。
これら大項目と小項目を組み合わせて診断をしていくということになります。
病理学的な診断は、末梢に疣贅が飛んでそれを検査することができたとか、心臓の手術をして、培養・疣贅・心内膿瘍の病理所見を確認すれば最終的な確定診断になりますが、実際に、内科的な治療をするための診断は臨床基準に従うと思います。
臨床基準は、(1) 大基準2つ,または (2) 大基準1つおよび小基準3つ,または (3) 小基準5つ で、確定診断ができます。
また、確定診断まではいかないものの、可能性が高いとする状態としては、 (1) 大基準1つおよび小基準1つ,または (2) 小基準3つ を満たすということになります。
また、否定的な状態としても項目が追加されていて、別の診断がついたとか、4日程度の治療で改善したとか、4日以内の抗生剤投与後に手術したら何もなかったなどの時には、IEは否定的だとしてもよいとされています。つまり、4日程度の抗生剤投与で治るものはIEじゃないといいたいようです。
ガイドラインからの抜粋です。
「感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2017年改訂版)」
[大基準]
● IEを裏づける血液培養陽性
◇2回の血液培養でIEに典型的な以下の病原微生物のいずれかが認められた場合
• Streptococcus viridans,Streptococcus bovis(Streptococcus gallolyticus),HACEKグループ, Staphylococcus aureus,または他に感染巣がない状況での市中感染型Enterococcus
◇血液培養がIEに矛盾しない病原微生物で持続的に陽性
• 12時間以上間隔をあけて採取した血液検体の培養が2回以上陽性,または
• 3回の血液培養のすべて,または4回以上施行した血液培養の大半が陽性(最初と最後の採血間 隔が1時間以上あいていること)
◇1回の血液培養でもCoxiella burnetiiが検出された場合,または抗I相菌IgG抗体価800倍以上
● 心内膜障害所見 IEの心エコー図所見(人工弁置換術後,IE可能性例,弁輪部膿瘍合併例ではTEEが推奨される. その他の例ではまずTTEを行う.)
• 弁あるいはその支持組織の上,または逆流ジェット通路,または人工物の上にみられる解剖学的 に説明のできない振動性の心臓内腫瘤,または
• 膿瘍,または
• 人工弁の新たな部分的裂開 新規の弁逆流(既存の雑音の悪化または変化のみでは十分でない)
[小基準]
● 素因:素因となる心疾患または静注薬物常用
● 発熱:38.0 ˚C以上
● 血管現象:主要血管塞栓,敗血症性梗塞,感染性動脈瘤,頭蓋内出血,眼球結膜出血,Janeway発疹
● 免疫学的現象:糸球体腎炎,Osler結節,Roth斑,リウマチ因子
● 微生物学的所見:血液培養陽性であるが上記の大基準を満たさない場合 (コアグラーゼ陰性ブドウ球菌やIEの原因菌とならない病原微生物が1回のみ検出された場合は除く),またはIEとして矛盾のな い活動性炎症の血清学的証拠
(Li JS, et al. 2000 6)より)
IEの診断基準(修正Duke診断基準)
【確診】 病理学的基準 (1) 培養,または疣腫,塞栓を起こした疣腫,心内膿瘍の組織検査により病原微生物が検出され ること,または (2) 疣腫や心内膿瘍において組織学的に活動性心内膜炎が証明されること
臨床的基準 a) (1) 大基準2つ,または (2) 大基準1つおよび小基準3つ,または (3) 小基準5つ
【可能性】 (1) 大基準1つおよび小基準1つ,または (2) 小基準3つ
【否定的】 (1) IE症状を説明する別の確実な診断,または (2) IE症状が4日以内の抗菌薬投与により消退,または (3) 4日以内の抗菌薬投与後の手術時または剖検時にIEの病理学的所見を認めない,または (4) 上記「可能性」基準にあてはまらない