僧帽弁閉鎖不全症や大動脈弁閉鎖不全症でも同じですが、AHA(アメリカ心臓病協会)のガイドラインでは、心エコーやカテーテルなどを用いて、弁膜症疾患を4つのStageに分類しています。
弁膜症の原因となるような異常はあるが、弁膜症はないかごくごくわずかである状態をStage A(at risk of TR)。軽度から中等度の弁膜症のある状態をStageB(progressive TR)。高度の弁膜症はあるが、血行動態的にそれほど異常ではなく、症状もない状態をStageC(asymptomatic, severe TR)。高度の弁膜症とそれに伴う右室の機能障害か症状のどちらかがあるものをStageD(symptomatic, severeTR)としています。
三尖弁閉鎖不全の弁膜症としての重症度を心エコーで評価をして、高度の弁膜症との判断となった時に、他の弁膜症では、心不全に起因する症状であれば、だいたいはすぐにStageDと判断できますが、特に機能性三尖弁閉鎖不全症の場合には、心不全の症状があるからといってすぐに、有症候性といわれるStageDとはなりません。
あくまで、心不全の症状が三尖弁閉鎖不全に起因するかどうかの診断が必要です。この点は、機能性僧帽弁閉鎖不全の考え方と似ていて、機能性三尖弁閉鎖不全の多くの原因が心不全であるという点に注意が必要です。
ガイドラインでは、エコーを中心としたTRでみられる特徴的な血行動態から生じる異常所見をいくつか述べており、高度以上のTR(stageC以上)であれば、それらの所見がみられうるとしています。
また、StageCとDに関しては、右心機能障害の有無とTRが原因となって起こりうる心不全の症状にも言及されており、それによって分けるようにしているようです。
StageBの記述を見ると
・No RV enlargement
・No or mild RA enlargement
・No or mild IVC enlargement with normal respirophasic variation
・Normal RA pressure
と記載されており、moderate程度であれば、右房は少し大きくなるかもしれないが、右房圧の上昇は起きないし、右室も大きくはならないはずだと考えられています。
また、こられが陰性所見として記載されているということは、三尖弁閉鎖不全が高度以上になると、これらの所見に注意が必要ということでもあります。
そこで、高度TRの所見を見ると
・RV/RA/IVC dilated with decreased IVC respirophasic variation
・Elevation RA pressure with “c-V” wave
・Diastolic interventricular septal flattening may be present
とあります。
まだ、心不全の時の心エコーでの評価や心臓カテーテルに関してはほとんど述べていないのですが、 "IVC respirophasic variation"というのは、心エコーで観察される下大静脈の血管径が呼吸性に変動するかどうかという所見になります。右房圧が上昇すると、大静脈径自体も大きくなりますし(血管のコンプライアンスが低いと低圧でも拡張することはあります)、また、呼吸をした時に下大静脈の血管径が変動しなくなります。
つまり、右房圧が高くなると、吸気やSniffといわれる鼻でくぅんと息を吸ったときに、血管径(正しくは径というよりは円が楕円になる)の変動が低下するか消失するかします。これが、”decreased IVC respirophasic variation ”といわれる所見です。
この所見を伴い、右室・右房が拡大することがsevere TRでみられます。
また、c-V waveというのは、もともと、心臓カテーテルの所見であるC波、V波というものからきています。
三尖弁の逆流によって右房の心周期での収縮期の圧が高くなって、この収縮期にあがる右房圧の影響を受けて頸静脈が著明に拡大するということがみられるという所見になります。
Googleで、「Giant C-V Waves of Tricuspid Regurgitation」で動画検索をして、動画で確認していただければ見やすいかと思います。
c-Vというのは、もともとc-V mergerというのがあって、心臓カテーテルの右房圧所見で、三尖弁閉鎖不全症による影響で、C波とV波が一つの台形のような形になる所見をいいます。おそらく、それの所見が頚静脈でみられるのをc-V waveというのだと思います。
ただ、もしかしたら、c-Vのcは、頸の英語であるcervicalの略で、cervicalでみらえるC-V波の略かもしれません。わかりません。すいません。
次に、Diastolic interventricular septal flattening may be presentというのは、拡張期に心室中隔がぶるぶると震える所見がみられるかもしれないということです。
これは、高度の三尖弁閉鎖不全になると逆流分が加わって右室の拡張期の大きさが非常に大きくなります。そのために拡張期圧も上昇します。ふつうは、左室の拡張期圧のほうが高いのと、中隔が左室側の断面が円形となるのを維持する力のほうが強いため、中隔も含めて左室の断面は円形になりますが、これが右室の拡張期圧のほうが高くなると、両室が拡張するときに、左室がずっと円形で拡張できずに、右室に圧排されるようになります。
かなり右室の拡張末期圧が高ければ、拡張末期も左室は円形を保てなませんが、多くの場合には、拡張の末期には左室は円形となるため、途中で円形が崩れるときにだけ、ぶるっと中隔が震えるようにみえるだけにとどまります。
ちなみに、肺高血圧では、収縮期の圧の問題であるため、収縮期に心室中隔が圧排される所見がみられます。
このような所見が三尖弁閉鎖不全が高度になるとみられます。