慢性心不全が非代償化するときに、明らかな原因があるときには何とかなることが多いです。
例えば、薬を1週間飲んでいなかったとか、インフルエンザになったとかがあれば、それで増悪した心不全を治療して、薬を飲んでもらうように状況を整えたり、インフルエンザは適応があれば抗ウイルス薬を処方して治まるのを待てば、心不全が増悪する前の状態程度に改善して、日常生活に戻ることは可能だと思います。
ただ、リハビリを含めたしっかりとした標準治療が行われている状態で、明らかな原因がなく心不全が非代償化しているときには、次の手がないことが多いです。なぜなら、これは基礎の心疾患の進行性の悪化を意味するからです。
慢性心不全は、基本的に進行性に徐々に悪化していく疾患群です。そのために、何か治せるような心機能障害の基礎となる原因がないかを調べ、ガイドラインで定められている標準治療を行っていきます。それで一時的に改善したり、悪化の速度が低下したりします。しかし、薬剤に反応しないとか、一時的に反応してもなお徐々に目に見えて進行性に悪化してしまう心不全ももちろんあります。そのような心不全の場合には同じ程度の日常生活をしていても、徐々に非代償化していきます。何か急性増悪する原因があるのではなく、心機能障害(時に心臓以外のFraility)が進行することで、同じ日常生活でも、その負荷に耐えきれず徐々にうっ血が起こり、低循環症状が起こっていきます。このような場合には、再度リハビリテーションを含めた標準治療が適切に行われているかどうかを見直す必要もありますが、基本的には、心臓移植登録の上(できればこのようになる前に登録は行っておきたいですが)、機械的な循環補助を行うか、適応がなければ、緩和医療かということになってきます。
以前にも少しお話ししましたが、症状緩和を優先して、慢性的に有益ではあるが、その時の症状緩和には逆効果である治療を中止し、長期的には有害であるがその時の症状を緩和させるには有益である治療を行うような選択をするというのが緩和医療の一つの定義だと思っています。つまり、寿命を縮める可能性のあることを許容するということも症状緩和のためには選択肢としてとることもあります。具体的には、βブロッカーの中止だけでなく、ICDの機能を止める(取り出す)とかということも選択肢として考慮されますし、強心薬を高用量で投与したり、精神的な癒しのために本人が好きなら塩分の多い食事をとるなども選択肢としてあり得るということになります。
ちなみに、終末期ということと、緩和医療期ということは違います。あくまで終末期というのは自分の心臓の機能では十分に日常生活を送れな状態の期間ということであり、心不全であれば、機械的な循環に置き換えれるので、終末期でも緩和というわけではありません。
終末期の中で、機械的な治療の適応がなく、かつ、本人、家族がガイドラインに従った標準的な治療を中心とするのではなく、今ある症状の緩和を中心とした治療を希望され、それが妥当であると判断されたときに、緩和医療期ということになります。ちなみに、積極的な治療、長期予後をよくする治療に相反しない症状緩和の治療に関しては、緩和医療期でなくとも、同時並行で行われます。これは言葉の定義の問題ですが、広い意味での緩和医療はすべての心不全の期間において行われる可能性はあります。
ともかく、心不全の急性増悪の原因があるかないかということは、その後の治療選択を決めるくらい重要なことだということになります。