心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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心不全に対する慢性期治療(3): βブロッカーとACE阻害薬とMR拮抗薬

HFrEFの治療としての2トップは、βブロッカーとACE阻害薬です。トップ下にミネラルコルチコイド受容体拮抗薬といったところでしょうか。
基本的には、禁忌事項がない限り導入していくことになります。
 
βブロッカーとACE阻害薬のどちらから導入するかというと、私は、ACE阻害薬から導入していくことが多かったです。
CIBIS III (Circulation. 2005; 112: 2426-35)という臨床研究では、どちらを先行投与するかというテーマで試験行われましたが、これはβブロッカーか、ACE阻害薬を6か月程度の間にどちらかだけを漸増させて、その後に併用するという試験です。この試験では、βブロッカー投与群で心不全は増え、突然死は減るという結果でした。ただ、実際の臨床とは違う極端な状態での試験だと思います。
普通は、どちらかを少し入れて、その後違うほうを追加して、少しずつ増量していくということになると思いますので、CIBIS IIIのように6か月単位でということはないと思います。そのため、私はこの試験結果はどちらが先かを臨床に沿って結論付けた試験ではないと考えていて、個人的にはどちらからでもいいと思います。ただ、ACE阻害薬のほうが心不全そのものを悪化させることはないですし、急性期から導入しやすいのでACE阻害薬を先に導入するということが多かったです。
また、通常の心不全であれば、血圧は高めのことのほうが多いかと思いますので、ACE阻害薬を先にいれます。ACE阻害薬は、過度な降圧以外には心不全自体を悪化させることはないので、血圧をみながら導入して、その後、βブロッカーをゆっくりと導入し、増量していくことになります。
腎機能にもよりますが、血圧 140/90以上の高血圧の状態であれば、エナラプリルで2.5mg程度投与して、1-3日程度みて、血圧が過度に低下していなければ、5mgに増量します。この段階で、血圧が140/90を下回っていれば、ひとまず増量せずに維持します。ちなみに、ACE阻害薬の増量はうっ血や溢水がある状態でも全然大丈夫です。逆に、急性期に血圧が高ければ、急性期から導入していけばいいと思います。急性期導入の注意点は高齢者で、血圧がある程度高くないと利尿が得られない人がたまにいるくらいで、空咳などの特有の合併症はもちろん起こりえますが、それ以外のことはほとんど起こらないと思います。
重症の心不全でも、急性期効果として後負荷を下げることで心臓の減負荷を効果を期待できますので、できれば導入していきます。導入の量は、エナラプリル 0.5 or 1mgとういう粉砕にして、薬効があるかどうかわからないくらいの量でいいと思います。この量でも重症であれば、血圧が下がって、利尿が減る人がいますので、注意して投与する必要があります。うまく導入できれば、後負荷を下げながら、心拍出量が増えて血圧は維持されるという急性期の良い効果もみられます。
 
さて、次にβブロッカーを導入していきます。慣れれば、心エコーの所見、血圧、心拍数、全体的な活動度などをみて、導入のタイミング・量や増量の間隔を決めていけると思いますが、不慣れな場合には、うっ血がよくなった状態で、できる限り少量から導入して、少しずつ増量していくのが安全だと思います。
ちなみに、心不全に対しての有効性が認められていて、日本で使用できるものは、カルベジロール(アーチスト)とビソプロロール(メインテート)の2つになります。使い分けは、明確にはありませんが、喘息があれば、アーチストは使えませんし、アーチストのほうがα遮断作用があり、導入時のふらつきなどが若干多い印象はあります。そのため、導入しやすいのはメインテートだと思いますが、臨床試験の結果などが比較的豊富なのはアーチストです。
 
個々の考え方によると思いますが、私は、アーチストを一番に考えて、導入時にふらつきがあるとか、もちろん喘息があるとかあればメインテートということにしていました。あとは、ビソノテープが結構使い勝手が良かったので、適応は高血圧になりますが、ビソノテープ(1mg,1/4枚)を亜急性期くらいから使用して、そのままビソノテープのまま増量していって、2mg or 4mgくらいで、メインテート(ビソノテープ 4mg ≒ メインテート 2.5mg)に置き換えるということが多かったように思います。
β遮断薬をどこまで増量するかというと、できるだけ増量するということになります(アーチスト 20mg、メインテート 5mg)。もちろん心不全が増悪している兆候がないということが前提での増量です。増量時に私が気にしてたのは、血圧と心拍数です。血圧は、理想的には120/80程度ということになりますが、ふらつきがなければ、100/-程度でもいいかと思っていましたし、重症心不全では、血圧80/-程度でも極々少量(アーチスト 1.25mg or メインテート 0.3125mg)から、かなり慎重に導入していました。ただ、高齢者では、十分な血圧が必要なこともありますし、予後というよりは、その時のQOLのほうが優先されることが多いと思いますので、導入、増量して血圧を下げすぎるよりも120/-程度をなんとなくの下限にしていました。心拍数に関しては、洞調律では60bpmを下限にして、それ以下になるようであれば、βブロッカーの増量はしていませんでした。
また、β遮断薬の増量時の心不全の増悪は、一般的な急性心不全の所見と同じですが、入院中であれば、1日単位で経過をみれますので、尿量をみていればいいと思います。βブロッカーの増量時に、心機能に悪さをすると自覚症状に出る人もいますが、尿量の減少だけがまずおこって、その後にうっ血所見が出ることがありますので、尿量は参考になると思います。
 
βブロッカーに関しては、複数の臨床研究から洞調律と心房細動で有効性が変わることが明らかになってきました。心房細動では洞調律ほどの予後改善効果がないか、まったくないかという結論になっています。つまり、心房細動では、β遮断薬で導入できれば、悪いことはしないが、それほどいいこともしない可能性もあるということですので、導入はするほうがいいと思いますが、現状では、できるだけ早期にアブレーションで心房細動自体を根治させにいくことが重要だと思います。
 
βブロッカーに比べて、ACE阻害薬を増量するほうがいいという明確なエビデンスは少ないですが、ATLAS (Circulation. 1999;100:2312–2318)では、増量したほうが、入院や死亡などが減少はしていますので、βブロッカを導入し増量した後に、血圧が許す範囲で、増量できるなら増量しましょう くらいの感じでいいと思います。
 
 
また、ミネラルコルチコイド受容体遮断薬に関しては、症状のあるLVEFの低い患者を対象にアルダクトンを使用したRales( N Engl J Med. 1999; 341: 709-17.)と、急性心筋梗塞後(発症後3-14日)のLVEFの低い人にエプレレノンを使用したEPHESUS(N Engl J Med. 2003; 348: 1309-21)や、症状はないがLVEFの低い患者を対象にエプレレノンを使用したEMPHASIS-HF(N Engl J Med. 2011; 364: 11-21.)がメインの論文になりますので、一部のガイドラインではLVEFが、HFrEFの中でも低めの35%以下のものに絞って投与を推奨していますが、利尿薬としての作用があるのでうっ血の治療になったり、意外に血圧が下がることが少ないので、急性期からも投与していけますので、個人的には、LVEFにそれほどこだわらずに投与してもいいのではないかと思います。もともとHFrEFが40%以下という定義ですので、あえて35%以下に限定しなくてもと思います。用量的には、試験で使われているのが、アルダクトン 25mgとエプレレノン25-50mgですので、特に増量する必要はないかと思います。