心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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左室の駆出率の保たれた心不全について(1)

左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF, Heart Failure with presereved leftventricular Ejection Fraction)は、以前は拡張不全型心不全(diastlic dysfunciton)といわれていました。拡張機能に障害が出て不全を起こして心不全を起こしており、収縮機能は問題ないのに心不全になっているという感じです。
拡張不全型心不全という単語が左室駆出率の保たれた心不全に変更になったのは、左室駆出率が低下している心不全でも拡張機能は障害されていることと、何より左室駆出率が保たれているからといって、収縮機能が保持されているかどうかはわからない、というよりも左室駆出率が保たれているだけで収縮機能は障害されていないわけではないと考えられるということから、原点に戻って、収縮機能と拡張機能という単語は使わずに、エコーでみて、計測したままの左室駆出率でわけているのだから、その事実に基づいて、左室駆出率の低下した心不全(HFrEF, Heart Failure with redeced leftventricular Ejection Fraction)とHFpEFに分けられました。
また、以前はLVEF 45%や50%などという値で分けていましたが、なかなかこの値できっちりと分けるというのは難しい面がありました。そこで、いろいろな議論が多分あって、HFpEF、HFrEFの間に、その間というか、少しLVEFが低下しているというニュアンスの、mid rangeというカテゴリーが加わり、3つに分けることが現時点では一般的になっています。
 
心不全患者の中でLVEFの基準としては、HFrEF, HFmrEF, HFpEF次の値でわけられます。
LVEF > 50% HFpEF
50> LVEF > 40% HFmrEF
LVEF < 40% HFrEF 
 
 
また、LVEFが低下して(LVEF < 40%)、内服や自然経過でLVEFが改善したrecovered(またはimproved)という概念や、LVEF 50-55%をlow normalといって、正常だけれどもちょっと低めというように評価することもあります。
LVEF 55-65%あたりをど真ん中の正常として、その周辺を少し異常の可能性もありとするのは、実際の肌感覚に近いものがあると思っています。
 
 
さて、なぜ、LVEFで心不全を分ける必要があるかというと、治療の有効性が変わってくるからです。
LVEFが低いものは、一般的に、ACE阻害薬やβブロッカー、抗アルドステロン拮抗薬といった、いわゆる標準治療が有効です。これらの治療で、心機能が改善したり、心不全のイベント・死亡率などが減少することがさまざまな臨床研究で証明されています。
研究によって、採用しているLVEFはことなりますが、おおむね30-40%以下としていることが多いです。
 
それに比べて、HFpEFの方は、心不全の標準治療がほとんど効きません。抗アルドステロン拮抗薬が少し効果がありそうというくらいで、他の内服に関しては、ほぼ無効という結果がそろっています。
もちろん、高血圧があればそれを治療するためのACE阻害薬は有効ですが、HFrEFのように血圧が高くなくても心不全に対して投与するということはしないことになります。
そのため、特定の原因があって、それに対する治療を別にすれば、HFpEFは、うっ血に対する利尿薬といった対症療法しか治療がないのが現状です。
 
 
一般住民レベルで、LVEFがいい人と悪い人で比べれば、圧倒的にLVEFが悪い人のほうに心不全が多く、予後は悪いです。
これは、一般住民レベルでは、LVEFがいいとほとんどの人が心不全ではないためですが、一方で心不全の人の中で、予後を比較するとLVEFはほぼ関係なくなります。
LVEF <40%とLVEF>60%では、予後は同等に悪く、予後の予測因子はLVEFではなくなります。
(ただ、HFrEFの中では、LVEF 40%の拡張型心筋症とLVEF 10%の拡張型心筋症では、LVEF 10%のほうが予後は悪いとはいえますので、HFrEFの中では、LVEFは予後予測因子となりえます。)