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心不全に対する慢性期治療(2):HFrEFの治療

HFrEF(左室駆出率の低下した心不全、Heart Failure with reduced Ejection Fration)の慢性期の治療薬とDeviceに関しては、ガイドラインに詳細に記述されています。
HFrEFは、心エコーで左室駆出率が40%以下の心不全を指します。また、他のHFpEFなどは心不全症状を有していることが内服治療の前提になりますが、HFrEFの場合には、左室駆出率が通常は40%以下となることはないため、症状がはっきりしなくてもLVEFが低下しているということ自体で治療の対象となります。

 

内服治療薬としては、状況に関わらず投与をする必要があるのは、ACE阻害薬(忍容性がない時ARB)、β受容体遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体阻害薬ということになります。
また、血管拡張薬(ニトロール+ヒドララジン)も、ACE阻害薬/ARBが投与できないときには考慮する必要がありますし、少数の結果では、多価不飽和脂肪酸であるエイコサペント酸(EPA, N3-PUFA)も心不全にいいというデータがあります。(理由は明確ではありませんが、平滑筋の弛緩に関係する酵素(Rhoキナーゼ)やカリウムチャンネルなどにも作用するようで、多面的な作用による可能性が示唆されます)

 

欧米に遅れて日本でも使用可能なARNI(ARB+NEP阻害薬)も心不全に対する有効性が明確に示された薬剤になります。ただ、現時点では薬価的にすべての心不全に投与するような感じではなく、基本的にはACE阻害薬の投与で、いくつかの条件を満たすようなときにはARNIの投与となっているようです。
また、イバブラジンも十分なデビデンスのある薬剤で、心拍数が一定以上ある洞調律患者(70bpm以上)では、投与の対象になりますし、同じ洞調律患者で、ジギタリスが低濃度で合併症が少なく、入院を減らすというデータがあり、中毒域にならないように強心作用や副交感刺激作用を期待して、投与することがあります。
ガイドラインでは、おおよそ共通して無条件ないし、一部条件付きでこれらの薬剤を投与することが勧められています。

 

併存疾患の治療も重要です。高齢者で多いのはCODP(慢性閉塞性肺疾患、Chronic Obstructive Pulmonary Disease)や、特に虚血性心疾患では、貧血を合併することがしばしばありますので、これらは循環的に心臓に負担をかけますので、しっかりと評価し、治療を行うことが重要です。腎機能障害に関しては、合併している率が高いものの、なかなか治療が難しいということはあります。

糖尿病の合併もおおくみられます。最近、腎臓の尿細管のSGLT2という糖を再吸収する輸送体を阻害する薬剤がでました。SGLT2阻害薬は、糖による浸透圧利尿効果により、利尿が起こり、心不全の再入院率が投与直後からみられはじめるという、少し予想に反したいい結果がみられています。これは、3つの異なる薬剤でおおよそ共通してみられていますので、この効果はこの機序の薬剤の共通の効果と考えられます。

 

また、薬剤だけではなく、リハビリというものは、すべてのステージの心不全で適切に行われる必要がありますし、ある一定の条件を満たす状況の人に限れば、ICD(植え込み型除細動器、Implantable Cardioverter Defibrillator : ICD)は突然死を減らし、CRT(心臓再同期療法、Cardiac Resynchronization Therapy)は心機能を改善させます。
陽圧換気療法であるASV(adaptive servo ventilator)に関しては、現時点では使う積極的理由はなく、欧米の臨床研究で心血管イベントを増やしていますので、導入はしてはいけませんし、現在使っている人はほぼいないと思いますが、やめる方向で話をしなくてはいけません。ただ、終末期でそれがなければ呼吸困難が改善されないという状況であれば使用の継続は妥当だと思います。

 

このような慢性期の治療について、みていきたいと思います。