心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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急性心不全の治療(14):うっ血の治療は? 利尿薬・ECUM・血管拡張薬

心不全の治療で、重要な循環不全と呼吸不全に対する評価と治療を行ったら、次に重要なのはうっ血の解除です。
時間的に次に重要と記載しただけで、心不全の治療とは、循環を維持しながら、うっ血をコントロールすることですから、うっ血の治療はとても重要です。
 
多くの心不全では、うっ血を起こして、余分な水が溜まって(溢水と表現されることがあります)いる状態ですので、トータルの水の管理は非常に重要です。
(一部の心不全では血管の中の水の分布の異常によりますが、この場合でも大概は溢水傾向が事前にあり、まったくその傾向がないものは少数派です)
 
根本的な水の管理としては、利尿薬か、機械的な除水(ECUM,  extracorporeal ultrafiltration method)が必要です。
利尿薬に反応が鈍い場合には、早期にECUMを導入することが、特に呼吸状態が不安定な場合には重要だと思っています。
 
また、うっ血の治療には、溢水の有無にかかわらず血管を拡張させることで一時的にうっ血を改善させることも可能です。可能ですが、特定の場合以外は、重要ではありません。血管拡張により、循環動態が改善し、利尿薬の追加投与をせずとも利尿が得られ、水分コントロールがなされることはありますが、これを期待しての治療はお勧めしません。評価が難しいのと、確実性がないからです(##)。
(##評価が難しいのは、血管が利尿できるほど十分に拡張して循環動態が安定したのかどうかの評価と、それによって利尿が得られるかどうかという多段階の評価が必要で、その一つ一つを評価する方法も侵襲的な検査でやっとできるかなというレベルなので、評価は難しいですし、多段階なだけに一連の流れとしての確実性が乏しくなります)
あくまで、血管拡張は呼吸管理の一環で行われるのがいいだろうと思います。
 
さて、血管拡張作用といっても、大きく分けて2つあります。
動脈系の血管拡張と、静脈系の血管拡張です。
動脈系には2種類あります。大血管系を拡張させて、コンプライアンスを上げて後負荷を下げる薬剤(高用量ニトロ製剤)と、末梢の細動脈を拡張させて末梢血管抵抗を緩和させる薬剤(ACE阻害薬やカルシウムチャネルブロッカー、PDEIII阻害薬など)です。
また、静脈系の血管拡張薬は、主にNOやそれと同じ経路を刺激する受容体を介した作用(ミオコール、カルペリチドとか)か、複合的な治療による腹腔内臓器の交感神経を介した作用(薬剤というよりは集学的な治療)になります。
 
心不全の急性期に、動脈が硬くなっているのか、静脈が収縮しているのかを診断する方法はありません。
重症心不全の時には、心不全に対してカテーテル検査を行って血管抵抗値を算出しますが、急性期にはできませんし、呼吸困難などの管理ができていない急性期にやる意味はあまり意味はありません。
 
わからないなりに、どのような人に動脈系のコンプライアンスを上げる治療が必要かのプロファイリングはあります。
急性期に動脈を拡張させないといけない人は、血圧が(その人の普段の血圧よりも)高く、肺水腫を起こしているときです。
さらにいうなら、頻呼吸、頻脈になり、拡張期血圧も上がっていて、末梢は冷感、顔も冷や汗をかいているような状態です。循環不全も伴っている状態といえます。
 
このような時には、動脈系の血管拡張を行う必要があります。
具体的には、ミオコールスプレーの投与です。
ミオコールというのはニトログリセリンで、舌下投与するのがニトロペンです。
もともとは、狭心症の発作時に頓用で使用することで、冠動脈への血流が改善し、胸部症状が緩和される目的に作られました。
しかし、心不全の一部に、大血管系が何らかのきっかけで硬くなってコンプライアンスが低下し、硬くなってコンプライアンスが低下した大動脈に血液を駆出することは、左室は負荷となり、そのために、左室拡張末期圧が上昇してしまいます。
この変化は、短時間でも起こりうるため、いきなり発症する肺水腫となることがあります。
逆に突然肺水腫になるような病態は、このような経過をたどるため、ミオコールスプレーが一時的な肺水腫の管理に必要不可欠となります。
ミオコールを5分から10分おきに、血圧と呼吸状態をみながら投与を繰り返します。
このような場合には、非侵襲的陽圧換気による治療が必要ですので、これらの管理をしていくことになります。
 
このような状況以外で、他の血管拡張薬を使用するときは、酸素投与などによる呼吸管理の補助的に使われるという考え方でいいだろうと思います。血管拡張薬は呼吸管理の一環だと思っていただいていいかと思います。
私は、ある時期から静脈投与するような血管拡張薬はほとんど使うことはなくなりました。
ある時期というのは、トルバプタンに使い慣れた時からです。この話は、利尿薬のところであとで述べていきます。