心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

心臓移植登録の流れ(3)

心臓移植のレシピエントの適応について、厚生労働省の資料を実際の現場の判断を踏まえて、お話ししたいと思います。

 

ー厚生労働省資料ー
心臓移植レシピエントの適応
1 心臓移植の適応は以下の事項を考慮して決定する。 ​
 I. 移植以外に患者の命を助ける有効な治療手段はないのか?​
 II. 移植治療を行わない場合、どの位の余命があると思われる か? ​
 III. 移植手術後の定期的(ときに緊急時)検査とそれに基づく免疫 抑制療法に心理的・身体的に十分耐え得るか? ​
 IV. 患者本人が移植の必要性を認識し、これを積極的に希望する と共に家族の協力が期待できるか? 
 
この項目は、結構主観性の高い範囲になると思います。私の話す内容が絶対ではありません。常に流動的で、より良い形になっていっています。あくまで、私がかかわっていた数年前の話しとして、参考程度にきいていただきたいと思います。
 
I.の心移植以外にというのは、その段階の医療レベルでできる最大限の原因検索を行ったうえで、治療可能な疾患ではないといえますか?ということです。原因となりうる疾患を診断・除外するための血液検査や身体所見、家族歴をはじめ、十分なサンプル数の心筋生検と、ガリウムシンチ、またはPETは行われている必要があります。VA-ECMOを入れている状態でもPETの撮影は可能ですので、VA-ECMOをいれて安定している場合には、その状態でPETをとる必要があるときもあります。ECMOを入れているから十分な原因の検索をしなくていいわけではありません。あくまで、最大限可能な原因の検索は必須です。
ちなみに心臓移植登録申請時に、患者が不安定では申請はできません。移植申請をするということは、申請をして登録された瞬間に、すぐにドナー心臓がきても、手術できる状態であることが必須です。そのため、VA-ECMOを入れなければならない状態は基本的には不安定であると考えられますが、ECMOを抜去できる、ないし、ECMOを導入していても、鎮痛薬のみで会話もできるし、食事も食べているような状態であれば、高度な循環補助が必要なだけで安定していると判断されると考えられます。
 
II.のどのくらいの予後は具体的に何年ということではなく、NYHAIIIないしIVで、有効と思われる治療を十分に行っても進行している場合には、1年あるかないかだと思いますので、特にこの項目に対して具体的に答えることはありませんでした。
 
III.に関してですが、心臓移植後は定期的な検査が必要です。特に移植直後しばらくは、頻回の心筋生検も必要で、免疫抑制薬はきちんと時間を守って服用する必要がすし、定期的に血中濃度を測定して微調整する必要もあります。これらは、頻回の外来通院や短期間の入院が必要です。特に頻回の心筋生検は、それなりの侵襲があります。それらを理解し、必要な検査を必要な時に、必要なだけ受けることができそうかどうかということになります。これには、一般的な治療以上にドナーから頂いた心臓をその時その時の最も適切な治療を受けて、少しでも長持ちさせる努力を払う必要があり、それを順守できる人かどうかということを判断しなさいということです。これは、なかなか難しい問題です。ある程度長い罹患期間であれば、その中で評価もできますが、短い時間で悪化して、移植かどうかということになった方の評価は困難です。特に、急変して気管挿管された状態では、鎮静がかかっていることがほとんどですので、本人の覚悟などを聴くのはかなり困難になります。これは次のIVにもかかわってきます。
 
IV.は、本人が理解し、そのうえで治療を希望するかどうかという意思の確認と、家族及びそれに準じる方々の協力体制が整っているかということを問うています。つまり、他の治療は、最悪患者が急変して気管挿管が必要で、その状況で冠動脈の治療が必要、心筋炎の検査・ステロイドパルスが必要といったときには、患者さんの最も近い方に意思決定の責任者になってもらって、その方の判断で治療を行うということはあり得ます。しかし、心臓移植に関する事柄については、かならず本人の理解と意思の確認が必要になります。そのために、例えば慢性心不全で、それまでに心臓移植の話などは一切なく、本人の意思確認が取れていない状態で、急性増悪で一気に気管挿管が必要なところまで悪化してしまうと、原則意思確認が取れていませんので、移植登録はできません。そのために、少なくとも鎮静は切って、十分な鎮痛のみにした状態で、気管挿管下の本人に説明し、心臓移植しか治療がないことを説明し、そのうえで、心臓移植を積極的に希望することを確認しなければなりません。このような状態で得た同意などにどれだけの普遍性があるかはわかりませんが、そうせざるを得ないときがあります。
もちろん、他の治療で何とか抜管を目指し、その後に説明と同意を得れそうなら最大限そのようにする努力は必要ですが、どうしても困難な時には仕方がありません。人工呼吸器管理下で、肺のうっ血が高度であったり胸水が多量にあって、心臓移植手術を受けれるような状態であれば、もちろん移植登録はできませんが、人工呼吸管理の状態で安定していれば、登録は可能かと思われます。
 
また、家族の協力に関しては、心臓移植では、食事や生活などが、いろいろと制限される部分が出てきます。また、特に移植待機期間中は、体外式補助循環が主流であった昔とは異なり、植え込み型補助循環が主流の現在では、心臓移植の待機期間を自宅で日常生活を送りながら待機するということが基本となってきています。心臓移植後よりも、植え込み型補助循環状態での待機時に最も家族に負担がかかる必要があります。このようなことをすべて理解したうえで、患者本人とともに心臓移植という治療の望む意思を確認することが必要です。ただし、あくまで心臓移植に関する協力への期待ですので、補助循環のサポートが可能かどうかは、心臓移植時には関係ありません。補助循環のサポートのほうがハードルは高いですが、それは心臓移植登録後の待期期間の話ですので、移植登録そのものには、あくまで心臓移植の待機期間を含みますが、具体的に補助循環のサポートができるかどうかは問題ではありません。
 
これらの項目は、抽象的ですが、非常に重要です。家族(またはそれに準ずる人)のサポートを得られないと判断され、心臓移植を断念せざるを得なかった方もいます。