体外式左心室補助循環(体外LVAD)で、特に昔はトーヨーボー、今はニプロといわれる単回使用体外設置式補助人工心臓ポンプについてお話ししたいと思います。
体外式左心室補助循環は、保険診療上特殊な制約(心臓移植登録済みなど)はありません。
臨床的に必要と判断され、循環器内科および心臓血管外科の体制が整っていれば導入することが可能です。
植え込み型も同じですが、体外LVADは、左心系から血液を脱血して、それを大動脈に返血するシステムとなっています。
VA-ECMOとの大きな違いは、右心系および肺循環に関与しないということになります。そのため、体外LVADでは、右心機能障害や肺の酸素化障害がある場合には、体外LVADだけでは循環・酸素化ができないため、何らかの酸素療法や、右室機能不全に対しての体外式の右室補助循環を使用する必要があります。
どのような患者さんに導入するかというと、現在では植え込み型VADが心臓移植登録患者さんに対して保険適応とされているため限定的です。
例えば、移植登録は少なくとも今はできないが、VA-ECMOで安定していて、呼吸機能や右心機能に特別のサポートは必要がないという状況になると思います。
具体亭には、好酸球や巨細胞などの劇症型心筋炎で、心筋炎自体の炎症は免疫抑制療法でコントロールでき、また、血行動態もVA-ECMOが導入されている状況で、安定しているが、左室の機能は依然と悪い、ただ、左室の補助循環を使用し、しばらくすればVADからの離脱が可能と考えられるような状態(bridge to recovery, BTR。植え込み型VAD限定の単語かもしれませんが、イメージは同じです)。
または、何らかの機械的な治療が必要なほど重症の慢性的な心不全が緩徐ながら確実に増悪傾向にある状態で、何らかの理由で心臓移植登録ができないが、その理由は近い将来に解除される公算がほぼ確定的(例えば、後1年で癌完治後5年になるとか)であり、肺に問題なく酸素化は行え、右心機能もさほど問題がなく、1年体外式VADで経過すれば、心臓移植登録がほぼ確実に申請できる状態(brighe to candidate, BTC)。
などかと思います。
以前は、VA-ECMOが入っていれば、それだけで心臓の移植登録ができないなどがあり、ECMO離脱するか、一時的に体外式にする必要がありました。しかし、現在は、慢性的な心不全が徐々に悪化する状態にあり、VA-ECMOが入っていても、その状態で安定していて、肺の酸素化に問題なく、肺血管抵抗なども一時的にVA-ECMOサポートを落としても、肺血管抵抗の上昇度合いから想定される値が登録範囲内の数値(6woods units)であれば、心臓移植登録は可能になってきましたので、わざわざリスクを冒して離脱してから登録するという必要はなくなりました。
もちろん、急性の疾患では、ある程度心機能が改善することも多く、VA-ECMO導入中に心機能が改善する可能性があり、ある程度の期間の心機能の改善がないことを証明しなければなりません。
時代はどんどん変わります。肝炎だって、完全に治癒する疾患になりました。
心臓移植の登録の条件や禁忌は、意外に抽象的な表現になっていますので、その時代の医療状況に合わせ、心臓移植の登録もいい意味で変化しています。
少し話がそれましたが、体外型VADについてです。
ニプロ式VADは、左室の心尖部付近に脱血管をいれて、上行大動脈に送血管をつなぎます。
酸素化自体は自分の肺で行ってもらうので、VA-ECMOと違って、人工肺がなく、その分管理がしやすくなり、機械的にも長持ちします。
左室は、基本的にはただの袋状態になりますが、左心機能がある程度残存していたり、回復してきたりすると、大動脈弁が開きます。
また、連続流ではないので、普段は大動脈弁が開いていくても、左室の脱血のタイミングと心臓の拡張期のタイミングが合って、前負荷が最大になると、大動脈弁がやや不規則ながら数拍に一度程度開放します。大動脈弁の開放は、長期管理の中で大動脈弁自体の変性などに関連するため、意外に重要です。
ニプロ式体外式VADには、いくつかの設定がありますが、私もそれほど詳しくはありません、すいません。
ニプロ式は、脱血した血液を一旦体外にある心臓を模したポンプのような袋の中に血液を脱血します。一方弁で一方向にしか流れないようになっています。プラスチックの箱の中にポンプとなる袋が入っている感じになっていて、箱の内側を陰圧にすることで血液を袋の中に引き込んで満たして、次いで陽圧をかけて、袋を絞ることで血液を駆出します。その血液は送血管を通って上行大動脈から全身に流れていきます。
設定としては、この袋にどれだけ血液を満たすかと、心拍数のように袋をどれだけの回数でポンプさせるかの回数を設定します。
それによって、1回心拍出量と心拍数と同じ感覚で、心拍出量を決めていきます。
この時に、設定を一定にしても、本当の心臓と同じで、前負荷と後負荷によって、心拍出量は変化します。そのために、できるだけ後負荷を下げるために、ACE阻害薬やARBといった内服を投与したり、前負荷は非常に重要ですので、飲水やどうしても足りないときには点滴を行ったりすることで、循環血流量を維持します。
また、植え込み型VADと違って、ポンプ内を直接みることができます。白色の血栓は多少であれば、日常茶飯事で観察されますが、黒色血栓は要注意です。抗凝固の状態や飲水・点滴などによって、対応することが必要です。また、状況によってはポンプ交換といって、送血管・脱血間の接合部を一時的に外して、新しいポンプに交換するような手術も必要になることがあります。
ポンプを駆動させる小さい冷蔵庫くらいの大きさの機械と常に管でつながっていますので、生活範囲もその管の届く範囲に限定されます。ただ、駆動装置自体は、バッテリー内臓で動かすことができますので、医療者がいっしょについて駆動装置を動かせば、散歩やリハビリも可能です。
一般の病院で、ニプロ式の体外型VADを管理することはまずないと思いますが、一応このような感じになっています。