健康リブ ー健康に生きるために病気を知るー

セミリタイアした医者のブログ。元気に長生きするためにしっておいてほしいこと。平日は毎日更新していこうと思っています。

LVAD植え込み後の循環不全の原因と対策

植え込み型左室補助循環装置(implantable left ventricular assist device, iLVAD, 植え込みVAD)の手術をすれば、かならず循環不全が改善し、心不全にはならないというわけではありません。少数ではありますが、LVAD植え込みでも心不全の治療を行う必要のある方がいます。
 
 
LVAD植え込み状態でで循環不全になる原因は、右心機能と左室の拡張性と心膜です。残存左心の収縮機能なども関係なくはないですが、寄与率としては、もともと収縮性が高度に障害されている人がほとんどですので、低いと思います。
 
LVAD植え込み状態でも、左室の内圧と容積が、関数の関係になっていることには変わりはありません。ごく簡単に傾きが正の1次関数だと思っていいと思います。容積が増えれば圧が上がるということです。ただ、ずっと同じ傾きの曲惨状にあるわけではなく、容積が増えれば、徐々に傾きも大きくなっていく、つまり、どんどんと違う急勾配な曲線に乗り移っていきます。その点をプロットしていくと指数関数になります。その前の1次関数はその関数の接線になるというわけです。
 
LVADをいれると左室の容積は激減しますので、左室圧も低下します。すると、右室にとって左室圧は後負荷ですので、後負荷が激減することになります。
柔らかい左室の心筋症の場合には、左室が大きくなっても圧の上昇はそれほどでもないため、右室にとっての負荷は増大せず、右室から左室へと血液を送ることができます。 
しかし、拘束性心筋症のように拡張性が非常に低い、容積の増大によってすぐに圧が上がってしまうような左室であった時には、逆に容積の変化あたりの圧の変動が大きいとも言えます。
 
LVADの循環は、LVADで回転数を欲しい流量になるように設定して、その血流量を維持します。もちろん、同じ設定でも前負荷や後負荷によって変化しますが、ひとまず負荷は一定と考えます。
血流量が、例えば4L/minと決まれば、その流量分だけ左室から一定のリズムで血液が脱血されていきます。その血液は循環しますので、定常状態になれば、心臓へ1分間に4Lの血液が心臓に戻ってくることになります。右室はこの4Lの血液を1分間にさばいて左室へどんどんと送る必要があります。
残存右室機能とは、このLVADでつくられた一定量の循環血流量をさばいて左室へ送る能力が十分にあるかどうかということになります。4L/分以上にさばける能力が荒れば、循環不全にはなりません。しかし、これを満たすことができない右室であれば、循環不全が生じます。
循環不全を防ぐために十分な前負荷を与えるとします。右室の前負荷を与えるということは、右室の容積を増やすということです。右室も容積が増えれば圧が上がります。容積が増えて、心膜が硬いと心膜が伸びずに、そのまま左室を圧排します。
また、左室圧は右室にとって後負荷となりますが、拡張性の悪い心筋であれば、左室の容積によって圧が大きく変化し、それが直接的に右室への負荷となるため、右室のパフォーマンスに直接影響します。
 
特に、LVAD留置後は、左室の圧が低く、かつ、当たり前ですが心臓術後ですので、程度の差はあれ、収縮性心外膜炎になっています。
つま。り、通常の状態よりも、右室の容積増加によって左室を圧迫しやすくし、さらに心膜が硬いため、左室の容積をさらに減らす方向へと進んでしまいます。要は、収縮性心膜炎の血行動態となります。
右室が左室を圧排すると、両心室の圧と容積の関係が、両室が干渉し始めた時点から、高度に急峻な直線(ほぼ垂直)になりますので、より右室にとっての後負荷が激増し、一気に血行動態的な破綻となり、循環不全になります。
これが、LVAD植え込み状態における循環不全の原因です。
 
これを防ぐためにできることを考えていきます。
手術時に、できるだけ右室周囲だけでも心膜を剥いでもらいます。心膜の影響がなければ、心外膜炎の血行動態にはなりません。心外膜はなくても、それほど問題にはなりません(心外膜の欠損は、ほとんど無症状でみつかり、ヘルニアによる突然死以外は、予後に影響しないのではと考えられています)
ただ、心外膜といっても、日本語では、心外膜と内側と外側の両方をまとめていっていますが、心外膜にはepiとperiといって、periはとれますが、epiをとることはできず、多少は心外膜炎の状態になるのは仕方ないのかもしれません。
また、術後にコルヒチンやNASIDSなどの抗炎症薬を投与して、心外膜の炎症を抑えるのも有効かもしれません。
 
 
術後の安定期には、血行動態的な治療としては、やはり右心と血管抵抗の2点が治療の対象になります。
前負荷は、輸液や飲水などで調整しますが、あまり増やしすぎると心膜が収縮性外膜炎状態になっていると逆に血行動態は悪化しますので、注意が必要です。
右心に対しては、強心薬の治療になります。もちろん、最終的には内服での治療を目指すことになりますので、少しでも強心作用のある薬を投与していきます。
順番としては、ピモベンダン 5mg。次に、ジゴキシンを中毒症状と心拍数をみながら投与します。最後は、タナドーパでしょうか。
心拍数に関しては、ある程度早いほうが、心筋のパフォーマンスは上がります。ペースメーカ(ICDやCRT)が入っていることが多いと思いますので、80-100bpmあたりでコントロールしてみるのが有効かもしれません。
心拍数に関しては、急性効果としてみれるとおもうので、右心カテーテル検査をしながら心拍数を調整する必要があるかと思います。
ただ、タナドーパや心拍数の調整は、ある程度の時間が経過すると心機能を低下させる可能性がありますので、短期的な効果をどうしても求めなければならないときに限定されるかと思います。
おそらく、ピモベンダンやジゴキシンは不整脈が起こるかもしれませんが、移植待機期間である4-6年程度では心機能を低下させることはないかと思います。
 
後、もっとも有効なのは、肺血管抵抗(PVR)を極限まで下げることです。
これも、NOの吸収をすれば急性効果をみることができます。
普通の左心不全では、NOの吸収をすると、一気に左室拡張末期圧が上昇して、肺水腫を医原性に起こす可能性がある(実際に起こったことがある)ので、基本的にはできませんが、LVADをつけていれば、収縮性心外膜炎の血行動態にならない限り、左室圧は上昇しませんので、気にせずに、肺血管抵抗を下げましょう。
有効であれば保険適応という大きな壁はありますが、それをどうするか、どうできるか次第にはなりますが、肺高血圧の治療薬を投与するのも有効ですし、肺高血圧に効くときには効くカルシムチャンネルブロッカーは、体血管抵抗も下げるので試す価値はあるかと思います。
 
PVRはどの程度で高いと感じるかというと、1.5以上は低くないと思います。通常の心不全ではないので、PVRは2以下にならないとおかしいです。
PVR 2-3は高いですが、困っていなければ治療する必要はもちろんありません。しかし、LVADの右心機能不全のための低循環という限られた状況であれば、積極的な治療の対象になりうると思います。