心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

症例集 1.若年女性の呼吸不全

ー症例1(実際の症例を基にモデル化しています)ー
私が若いころに、呼吸困難で運ばれた若い女性をみたことがあります。


救急隊からのふれこみで、気管支喘息で治療中とのことでしたので、きっと気管支喘息の発作だなと思いました。
救急搬送され、病院に到着したときに、確かに、聴診するまでもなく、ぜいぜいと強い喘鳴がありました。
動脈血の酸素濃度も酸素全開で投与(O2 15L程度)で、SpO2 90%あるかどうか、動脈血ガスでは、PaO2 60mmHg程度で、PaCO2 40mmHg程度だったと思います。(CO2はたまってはないけど、過換気のわりにとんでいないなと思いました)。


30歳前後の女性で、気管支喘息治療中とのことでしたので、まず、ボスミンを少量皮下注して、静脈ルートを確保して、メプチンの吸入をしようとしたときに、レントゲンの結果が出て、なんと、きれいな肺水腫でした。


何故肺水腫なんだ、喘息発作じゃないじゃないかという思いと、ボスミン投与後でしたので、状態のさらなる悪化に備えました。
また、敗血症などの可能性も考えましたが、血圧は来院時から100以上あり、頻拍は頻拍でしたが、血液検査からも積極的に敗血症を疑う状態ではありませんでした。


すぐにエコーを当てましたが、心臓はそれなりに動いていました。
(ボスミンの影響もあったかもしれません)
この時のボスミンの投与は 0.1ml皮下だったと思います。呼吸不全のために気管挿管に行かないためにボスミンを打ちたいという判断と、頻脈(HR 110)程度で、これ以上頻拍にしたくないという判断の、自分の中の折衷案が0.1ml投与だったと思います。(この当時はBiPAPは使用できませんでした)
 
その後に、家族がやってきて、持参してくれた本人の薬の中に喘息の吸入のほかに、メルカゾールが大量にありました。処方日から考えて、服用していないことは間違いない状況でした。
メルカゾールは、甲状腺機能亢進症の方の治療薬です。甲状腺ホルモンの分泌を押さえるような薬剤です。


怠薬による甲状腺機能亢進症、およびクリーゼ状態が強く疑われました。
その日は、休日でしたが、検査担当者に無理やりお願いして、機械を立ち上げて甲状腺機能をすぐに測定してもらうと、やはり甲状腺機能亢進状態でした。


その後、意識が混濁気味の本人に簡単に説明し、家族にも説明したうえで、気管挿管を行い、呼吸状態などを安定させたうえで、ヨードの内服やβ遮断薬の慎重な投与などを行い、コントロールすることができました。


ちなみに気管挿管後に心臓の動きは弱っていましたので、救急外来でのエコーは皮下注ながらボスミンの作用があったのだと思います。
もちろん、甲状腺機能亢進症にはボスミンは原則禁忌です。


改善後に、家族・本人に治療の経過を説明し、ボスミンの使用などに関しても、理解していただけたことを覚えています。

 


この症例とは関係ありませんが、心拍停止の患者に、ボスミンを投与した後で、心拍再開直後の心エコーは、心臓がボスミンに反応して過剰に運動している可能性があります。
それだけのポテンシャルがあるということですが、ボスミンが切れてくると動きが弱くなって、血行動態が不安定になることがあります。
心臓の動きはこまめにチェックして、必要があれば、すぐに強心薬や必要があればボスミン持続静注なども必要となります。