心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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急性心不全の治療(27):頻拍に対する治療(心房細動、心房粗動の時)

心房細動の時にどうするかですが、心房細動の時には、洞調律の時に使えるジギタリス、オノアクトに加えて、ワソランやヘルベッサーも有効になります。
また、特に初回の心房細動では電気的除細動をどのタイミングで行うかというのも、重要な選択肢になります。

 

心房細動は、洞調律に比較して、心拍数の増加の度合いは大きくなります。どういうことかというと、心不全が代償されている安定している状態の洞調律と心房細動の人がいて、それぞれ平均の心拍数は80bpmだとします。この二人が同じような心不全の非代償状態となった時でも、洞調律では100-110bpm程度でおさまることが多かったとしても、心房細動の人では容易に平均で140-150bpm程度になります。
同じような交感神経の暴走が起こったとしても、洞結節よりも房室結節のほうが、興奮が起こりやすいと思われます。

 

心房細動の頻拍で平均140-150bpmだったとしても、もちろん心不全の治療自体がうまくいっているのであれば、急性期に積極的に心拍数をコントロールする必要はないと思います。
ただ、心不全治療に対する反応が悪く、心拍数が原因の可能性として考えられる時には、洞調律の時と同じく治療ターゲットとなります。
心房細動の時にも、基本的にはジギタリスを使って、そのあとにあのアクトで調整していくということでいいかと思います。


小さい高齢女性や透析の人なら、ひとまずジギタリス0.125mgを30分で投与して、そのあとオノアクトを 0.5 or 1 or 2γで開始して、少しずつ増量するという方針です。
洞調律よりも心房細動の時には、長いpauseが出やすくなるので、pauseの時に心室性の不整脈などの出現に注意してください。

また、心房細動の時には、房室結節が心室のリズムの調整をしますので、ワソランやヘルベッサーも心拍数管理には有効になります。
ただ、オノアクトに比べて、陰性変力作用が強いのと、薬剤中止後の薬効の切れるのが遅いので、より一層の注意が必要です。
個人的には、低心機能の心房細動には、ジギタリスとオノアクトで調整できる範囲で調整して、ワソランまで使うことはあまりありませんでした。

ワソランを使用した経験としては、低心機能に上室性頻拍が合併していて、その時に止まるまで使うということはしたことがありますし、オノアクトが発売されるまでは、心房細動でも時折使うことはありました。使用方法としては、すごく少量を静注します。0.5-1mg(0.1-0.2A)程度を静注し、様子を見ます。反応があるようであれば、1日換算でワソラン 2.5-5mgを投与するような低濃度で持続投与します。
この方法は、オノアクトのある現在では心房細動では必要ないかもしれませんが、心房粗動では有効だと思いますし、実際に何回かしたことはあります。

 

心房細動や心房粗動の時に、心拍数を落とすことでの安全性の評価として、RR間隔が伸びた時に、outputがどれだけ増えるかをエコー(LVOTのVTI)で評価するというのは一つの方法として有用です。
心房細動の時には、RR間隔は不定ですので、しばらくエコーを構えておいて、RR間隔が長い時の、outputがどれだけ増えて、どの程度になるのかを評価すれば、心拍数を下げる効果を予測することができます。
心房粗動に関しては、じっと待っていてもなかなか伸びてくれないと思いますので、ワソランを片手に、少しだけ静注して、2:1伝導の中に、時折4:1伝導が現れるようにして、2:1の時と、4:1になったときのoutputの変化をみます。4:1になったときに、もし、2:1の時とoutputが変わらなければ、心拍を落とすのは危険です。そのまま完全に4:1にしてしまったら、純粋に心拍出量は半分になり、より循環不全が進みます。そうではなく、しっかりとoutputが増えれば、ある程度の自信をもって、ワソランの持続で4:1くらいの心拍数に管理をすることができます。

 

また、電気的な除細動や除粗動を行うことも、考えなければなりません。
洞調律に復帰し、維持することができれば、ある程度適当な心拍数でコントロールもできますし、洞調律になること自体で拡張末期圧が低下しますので、心不全のコントロールはかなりしやすくなります。
ただし、電気的な治療を行うに際して、基本的には経食道エコーが必要ですが、ある一定期間抗凝固薬を十分に服用しているのがわかっているときには、経食道エコーは省けます。
経食道エコーは、特に慣れていない人しかいない施設では、受ける患者さんにそれなりの負担をストレスを与えますので、呼吸状態の悪化が懸念されます。また、除細動で、一瞬心停止が起こります。この時に静脈からのある程度の還流は続きますので、心臓から血液が出ないのに返ってくるという状況となり、特に右心系を中心とした拡張末期圧の上昇という結果になりますので、心不全が一段と不安定化することもあります。
ある程度安定している状況であったり、もう気管挿管されているような状況であれば積極的に行ってもいいと思います。

 

心不全が安定したら、特に初回の心房細動や心房粗動は除細動しておきましょう。