心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

心不全のすべて(12:心筋細胞不全)

 
心不全の心筋には何が起こっているのか。

 

心臓の筋肉は、心筋細胞内にあるアクチン・ミオシンの、カルシウム濃度に依存した滑り込み機構によって、収縮と拡張を繰り返します。

 

心不全を起こす最も狭い意味での不全心は、心筋細胞の機能不全を基礎にしています。

一部の不整脈や心筋梗塞でももちろん最終的には不全心となるものもありますが、それは全体の機能として不全心となるので、細胞一つ一つはもともとは正常であったはずです。

 

では、心筋の細胞機能の異常を調べることができるかというと、現在の医学ではできません。

心筋を構成するたんぱくの構造自体は、ここ10か20年ほどでたんぱく質の立体解析が進んだことで、相当のことがわかってきました。

アクチン・ミオシンとトロポニンが重要ですが、それらを調整するたんぱくやアクチンやミオシンを支えるたんぱくなど心筋には様々なたんぱくがあります。

それらのたんぱくの異常が心筋細胞の拡張・収縮機能を不安定にしたり、エネルギー効率を悪くすることで、生まれつきであったり、ある程度の年月が経過してから心不全症状として現れるなどします。


現在、例えば、トロポニンとカルシウムの感受性の低下や亢進が心筋症の原因と考えられています。

例えば、トロポニンCにカルシウムがくっついたときに、それによって動くアクチン・ミオシンの拡張・収縮機能が異なることが考えられます。

簡単に考えるために、トロポニンCにカルシウムが、2つついて正常レベルに収縮するのを、正常反応とします。

過剰反応は、トロポニンCに1つカルシウムがついて正常レベルの収縮がおこるのを感受性の亢進、4つつかないと正常レベルの収縮をしないものを感受性の低下とします。

感受性の亢進が、肥大型心筋症といって心筋の一部が極度に肥厚している心筋症でみられるといわれ、感受性の低下が拡張型心筋症の一部でみられるといわれています。

また、タイチン(日本で発見され当時はコネキシンといわれていました)というたんぱくはミオシンを貫通するように、Z膜という膜にくっついています。Z膜というのは、心筋線維の束に一定間隔に並んで、節という単位にわけています。竹の節のような感じです。長い竹が節でわかれているように、心筋の中の筋繊維も一定間隔でZ膜によって節に分けられています。そのZ膜にアクチンがついていて、ミオシンは、タイチンに引っ張られる感じで、Z膜についているため、直接はくっついていません。そのため、このタイチンに異常があるとミオシンが正常に働けなくなり、収縮機構に異常をきたします。

また、ラミン、デスミンなどさまざまな心筋を形成するたんぱくの異常のため、正常に拡張・収縮できない、または、拡張・収縮するのに過剰なエネルギーが必要などの状況により不全心となります。

 

心筋細胞不全という単語はありませんが、本来はこれをきちんと評価することが大事で、心筋の最小単位の機能をイメージすることは重要だろうと思います。


ちなみに心筋梗塞などを疑ったときに、病院でトロポニンIとかトロポニンTという項目を図ります。

心筋のダメージが起こる病気では、心筋細胞の中の成分が血中にでるからです。では、トロポニンCはなぜ測定しないかというと、トロポニンCは、心臓以外の筋肉と共通の構造なので、トロポニンCが高くても、心筋がやられているのか、他の脚とか腕の筋肉がやられているのかわからないためです。

そのため、心臓とほかの筋肉で構造の違うトロポニンI、トロポニンTを測定して、心臓にダメージが起きているのかどうかを診断します。