心電図やレントゲンなどは、なんとなくの心機能障害や心不全の状態を把握するのには有用ですが、大動脈弁閉鎖不全の診断そのものには、関係ありません。
身体所見にも特徴的な所見はありますが、あくまで診断と重症度評価には心エコーが必要です。
心エコーで評価するのは、まずはカラードップラーの到達と面積です。これで、none+traceなのか、それ以上なのかを診断します。左室流出路内ですぐにシャッと消失するようなわずかなものは、traceであり、それ以上の評価は不要です。
逆に言えば、左室流出路を超えるものに関しては、それ以上の評価が必要になります。
もちろん、狭窄性疾患よりも測定項目はおおくなるため、検査時間は長くなりますが、しっかり検査しましょう。
特に、僧帽弁と大動脈弁の両方の閉鎖不全を評価するとかなりの時間になりますが、仕方ありません。
では、mildからsevereまでをどのような項目で評価するかですが、以下に、AHAのガイドラインで採用されている心エコーの項目を並べて、ひとつずつ説明していこうかと思います。
(日本人のデータはほとんどないので、日循のガイドラインは日本語であるというだけで、ほぼ海外のデータから作られたガイドラインですので、新しいAHAのガイドラインに準拠して説明していこうと思います。)
心エコーによる検査項目で、mild,moderate or severeを判断するのに使用されている評価項目は以下のものになります。
o Jet width of LVOT (左室流出路の断面におけるARジェットの占める面積率)
o Vena contracta
o Holodiastolic flow reversal in the proximal abdominal aorta (腹部大動脈の拡張期に見られる心臓方向への血流(逆流波))
o RVol (Regurgitant volume, ARの逆流量)
o RF (Regurgitant fraction, ARの心拍出量に対する逆流率)
o ERO (effective regurgitant orifice area, PISA法における有効逆流面積)
心機能の指標としては、
LVEF、LVESD
となります。
一部僧帽弁閉鎖不全症の評価項目と同じような説明になりますが、順次説明をしてきた一思います。
また、それぞれどのような値であれば、mildで、severeでという基準となる値をAHA準拠で一覧にしてしました。
個々の検査では、いろいろな制限で十分に評価できる値とそうでないものに分かれてしまうと思います。
文献では、RVol、RF、EROのうち、すべてがmildの基準に入っていれば、mildとして、どれか一つが重症の基準に入っていれば、severeとし、そのどちらでもないものをmoderateにしているものが多いように思います。
個人的は、これに合わせて、vena contractaと腹部大動脈での拡張期の逆流波を合わせて最終の重症度評価としていました。
つまり、計測した値が、severeの評価とならなくても(あまりに少ない場合は悩みますが)、はっきりと腹部大動脈で逆流波があるものや、正確に評価できるvena contractaで6mmをはっきりと越えるものは重症の評価でよいと考えています。
また、心機能を見る時のLVEFに関しては、常に(EFがいい=心機能がいい)と思ってはいけまないということを意識しましょう。small heartといって、何らかの原因で心機能が低下しているのに心臓が大きくなれない一群があります。そういう心臓に大動脈弁閉鎖不全が合併していたら、LVEF 60%でも心機能は低下しています。常に、有効な心拍出量が十分かどうかを評価しましょう。
そのためにも、大動脈弁閉鎖不全がある時には、右室の流出路での心拍出量を計測しましょう。
また、日本人に、LVESDを適用するときには、かならず体表面積で補正しましょう。白人男性と、日本人女性の心臓を補正なしに絶対値で評価していいわけがありません。
Mild AR:
o Jet width <25% of LVOT
o Vena contracta <0.3 cm
o RVol <30 mL/beat
o RF <30%
o ERO <0.10 cm2
o Angiography grade 1+
Normal LV systolic function
Normal LV volume or mild LV dilation
Moderate AR:
o Jet width 25%–64% of LVOT
o Vena contracta 0.3–0.6cm
o RVol 30–59 mL/beat
o RF 30%–49%
o ERO 0.10–0.29 cm
o Angiography grade 2+
Normal LV systolic function
Normal LV volume or mild LV dilation
Symptomatic Severe AR:
o Doppler jet width ≥65% of LVOT;
o Vena contracta >0.6 cm,
o Holodiastolic flow reversal in the proximal abdominal aorta,
o RVol ≥60 mL/beat;
o RF ≥50%;
o ERO ≥0.3 cm2;
o Angiography grade 3+ to 4+
o In addition, diagnosis of chronic severe AR requires evidence of LV dilation
Symptomatic severe AR may occur with normal systolic function (LVEF>=50%), mild-tomoderate LV dysfunction (LVEF 40% to 50%) or severe LV dysfunction (LVEF <40%);
Moderate-to-severe LV dilation is present.
Asymptomatic Severe AR:
o Jet width ≥65% of LVOT
o Vena contracta >0.6 cm
o Holodiastolic flow reversal in the proximal abdominal aorta
o RVol ≥60 mL/beat
o RF ≥50%
o ERO ≥0.3 cm2
o Angiography grade 3+ to 4+
o In addition, diagnosis of chronic severe AR requires evidence of LV dilation
C1: Normal LVEF (>=50%) and mild-tomoderate LV dilation (LVESD<=50 mm)
C2: Abnormal LV systolic function with depressed LVEF (<50%) or severe LV dilatation (LVESD >50mm or indexed LVESD >25 mm/m2)