心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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心エコーでの僧帽弁逸脱部位の同定

僧帽弁の逸脱は、一次性僧帽弁閉鎖不全症の原因として、しばしばみかけます。
 
僧帽弁逸脱は、僧帽弁の閉鎖位置である、弁輪の少し心室側のラインより、僧帽弁の一部が心房側へ過剰に移動してしまうことです。弁の付け根や弁腹などは異常がなく、弁の先が異常な時に逸脱といいます。
弁腹から完全に本来の閉鎖ラインを超えて心房側に落ちてしまっているのは、フレイルといいます。
時折、弁腹は落ちているのに、弁尖は閉鎖ラインに残っていたり、両方ともいい感じで心房側に落ちていて、心房側でうまいこと接合して、逆流がなかったりすることもあります。
 
僧帽弁逸脱は、多くは弁自体には異常はなく、何らかの理由で弁の心房方向への過剰な移動を制限するように引っ張っている腱索が断裂することでおこります。
断裂の原因は様々で、心筋梗塞のように腱索の付着部である乳頭筋自体が傷んでしまうことや感染性心内膜炎によって弁の障害とともに腱索にも波及し切れることもあります。ただ、多くは原因が不明なことが多いように思います。もともと、偶然その腱索が弱くて、血流とで削られて切れたのかもしれません、わかりません。
 
腱索の断裂は、どのレベルで起きるかによって逸脱の範囲が変わり、大きな逸脱は重症の僧帽弁閉鎖不全の原因となります。
 
経胸壁心エコーのカラードプラーの逆流の血流の方向でどの弁が逸脱しているかの診断が可能です。さらに、3D心エコーでは、特に経食道での3Dエコーでは、どの部分が逸脱しているのか、3D画像で明瞭に観察することが可能です。
 
弁の構造は、僧帽弁は2枚の弁で構成されていて、前尖は一枚のべローンとした大きな弁で、後尖は3つの部分に分かれた横長の弁です。イメージとしては、きりっと口角の上がった上唇の腫れた口でしょうか。また、前尖と後尖の間、口角の両端には交連部という小さい構造もあります。
 
まず、経胸壁心エコーでみるときには、傍胸骨長軸像で、逆流波形が、前(画面の上)に向かって吹いているのか、後ろ(画面の下)に向かって吹いているのかを確認します。
前に向かって吹いているときには、後尖のどこかが逸脱しています。逆に後ろに向かって吹いているときには前尖が逸脱しています。
この状態で、大きく前後にプロープを振ります。イメージとしては前交連から後交連にいたるまで弁の全体をプローブを動かしながら観察します。吸い込み血流がどこで大きくなるのかしっかり観察します。弁が見えなくなるぎりぎりでもに、カラーの吸い込みがみえる時には、交連部単独の逸脱の可能性もあります。
 
次に、短軸の観察です。前尖か後尖かはすでにあたりをつけていますので、次は、側壁側(A1 or P1)か中隔側(A3 or P3)か、もしくは真ん中か(A2 or P2)かを診断します。
前尖の逸脱の場合には、下の方向にまっすぐカラードプラーが見えます。ただ、前尖自体は、後尖のように別れてはいないので、対応する後尖の位置に対応して、A1からA3までのどこが逸脱しているのか診断します。
後尖の逸脱の場合には、前尖ほど単純ではありませんが、それほど難しくもありません。P2の場合には、まっすぐ上向きに吹きます。P1の場合には、中隔側に向かって横向きに吹きます。逆にP3の場合には側壁側に向かって真っすぐに吹きます。ただ、それだけです。
ここで注意が必要なのが、P1やP3で本当に弁の真下を這うように逆流することがあります。心尖部からの像では、弁の下にカラーの線が見えるだけということがありますので、注意が必要です。また、この弁の真下を這うときには、カラーエリアは全く参考になりませんので、しっかりといろんな断面でPISA玉を出すことと、連続の式で重症度の評価を行ってください。
また、交連部の逸脱がまじると、斜め向きの逆流ジェットが生じます。心尖部からの左室2腔像や短軸などで、斜めに走るジェットがないかどうかをしっかりと観察してください。
もちろん、いくつかの逸脱が合わさることもあります。その時はカラージェットの足し算になりますので、しっかり観察してください。