心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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一次性僧帽弁閉鎖不全症の原因とは?

僧帽弁閉鎖不全症の原因
 
僧帽弁閉鎖不全症の原因は、大きく一次性と二次性といわれるものに分かれます。
今までの重症度の数値の記載は、あくまで一次性僧帽弁閉鎖不全に対する評価です。二次性では値が同じものと異なるものがあります。
 
一次性、二次性とはそれぞれ、弁とそれを支える腱索の異常によって弁に孔ができてしまったり、弁の閉鎖ができなくなってしまうのが一次性で、心筋組織の不全により、僧帽弁を支える腱索の左室への付着部である乳頭筋と僧帽弁自体の距離が拡張末期から収縮期にかけて遠くなることで、弁が閉じなくなることが次性となります。次性の時には、弁や腱索自体には異常はないとことが前提となります。
 
一次性は、弁そのものに異常があるのであって、基本的には心筋の機能不全はないか、もしくは機能不全があっても、それは僧帽弁閉鎖不全によるもので、僧帽弁閉鎖不全を治せば心筋の機能不全も改善すると考えられます。(手術などの時機を逸してしまうと機能不全は正常にはなりませんが、少なくとも治す前よりはよくはなります)
 
ちなみに、僧帽弁閉鎖不全症の時の左室は、左室に限局した高心拍出性心不全に、左房容量負荷が加わった不全心の状態となります。50%の僧帽弁閉鎖不全ですと、倍の心拍出量が必要な高心拍出状態となります。
 
次性の場合には、心機能が悪くないのに起こることはありません。高度な肥大心のときに時折みられますが、左室の駆出率が良くても、結局は、心室の縦方向の収縮、つまり、僧帽弁と左室の乳頭筋の相対的な位置は離れたままになり、十分な閉鎖ができない状態になっています。
 
さらにこの時に、僧帽弁、特に前尖の大きさは重要です。僧帽弁と乳頭筋の位置が離れていっても、僧帽弁の前尖が相応に長ければ僧帽弁閉鎖不全は起こりにくくなります。
 
さて、一次性僧帽弁閉鎖不全症についてお話していきます。一次性の原因は、特に手術を依頼するときに、術式などに大きな影響を及ぼしますので、かならず十分な検討が必要です。
 
1)僧帽弁自体に異常がある場合
 以前よくみられたのがリウマチ性の連合弁膜症、忘れてはいけないのが感染性心内膜炎、ぱっとみで違和感があるのがBarlow症候群です。
リウマチ性の連合弁膜症は日本ではあまりみなくなりました。ただ、今後海外からの方が増えると、また、一定数みられるようになるかもしれません。診断の決め手は、僧帽弁狭窄症や、狭窄まではいかなくても拡張期に弁の開放制限を伴うことです。また、大動脈弁にも何らかの弁膜症か、変性を伴うこともあります。これらの所見をもとに診断となります。
 
感染性心内膜炎による僧帽弁閉鎖不全の特徴は、感染の腫による弁の閉鎖不全であったり、弁が破壊されたりすることです。弁に粥腫がついていて、べっとりと分厚くなって閉鎖が不全となる場合と、粥腫によって弁自体が破壊され、思ってもいない場所から思ってもいない方向に逆流が吹いていることがあります。
ちなみに、私が見逃して、別の先生が見逃しに気づいてくれた僧帽弁閉鎖不全が、この弁の破壊のタイプです。弁自体は、厚くなく、後で見直すと前尖の真ん中あたりから偏向性に逆流ジェットがありました。完全に見逃した症例です。とくに抗生剤で治療が進んでいて、粥腫自体は小さくはなっていたのですが、破壊が遅れておこったのか、粥腫で孔がふさがれていたのが、粥腫がなくなって逆流したのかはわかりません。

さて、感染性心内膜炎全般のことに関して、少し追加ですが、もっとも重要なことは、経胸壁エコーだけで診断してはいけないということです。経胸壁エコーではみえないような感染による弁や心室などのくっついている粥腫はあります。
発熱の原因として、感染性心内膜炎を疑ったときには、必ず経食道エコーで確認してください。
経胸壁エコーで、粥腫が見えているときでも、他の場所にもある可能性がありますので、経胸壁と合わせて、必ず経食道エコーで確認してください。
 
最期に、Barlow症候群です。イメージでいうと、僧帽弁がもこもこ・ごつごつとしているような弁です。はっきりとした定義は調べた範囲ではないようです。
原因は、僧帽弁が通常より薄かったりして、きっちりときれいな形を維持できず血流や圧にさらされて、もこもことした、ごつごつとした形の弁になるようです。
Barlowになると、弁の閉鎖がきっちりできずに、合わさりの不具合から弁逆流が起きたり、弁がきっちりと本来の弁が閉まる弁輪のレベルよりも僧帽弁側に入ったところで合わさって、それに前尖か後尖のどちらかが弁輪に近い位置で止まって、弁が接合できずに弁の閉鎖不全が起きたりします。
Barlow症候群になる原因の可能性として、甲状腺機能亢進症やマルファン症候群などがあるようです。
 
2)他の先天性心疾患などに伴うもの
心内膜の欠損に伴うような弁膜症もあります。成人で初発で、何らかの僧帽弁閉鎖不全が先天性心疾患に伴って発見されるということはかなりまれだとは思います。
 
3)腱索の異常
原因として一番多いのは、腱索の異常というか、ほぼどこかのレベルで腱索が断裂して、弁自体が心房側に反り返ってしまい、弁の接合が不十分になって、その不十分な部位が閉鎖不全の孔と入り逆流が生じるということだと思います。
 
腱索の切れる位置(高さ?)やそれによる弁のずれの程度によって、症状が急性に発症したり、徐々に発症したり、または、軽症であったり重症であったりします。
心筋梗塞などに伴って乳頭筋に近い位置で腱索が切れると、事実上弁の半分が支えを失うので、急性に発症する重度の僧帽弁閉鎖不全症となり、一気に心不全症状が発症します。特に腱索が切れるような心筋梗塞のときには、心筋に広い範囲に炎症が波及していたり、心膜にも炎症が波及していることがほとんどですので、収縮機能だけでなく、拡張性も悪化しています。このような状態で、急性の僧帽弁逆流が生じると、急激な肺水腫と、低潅流症状がでますので、直ちに、なんらかの補助循環(Impella以上)が必要になり、引き続いて手術をする必要があります。
 
若年で特発性(要は原因がわからない)に腱索が切れているような場合には、心機能がかなりいいので、急に発症してもちょっと息苦しいという程度の時もあります。結局、症状は、左室と左房のコンプライアンス、拡張性ということになります。
 
弁に近い部分の腱索が切れた場合には、切れた腱索がエコーでプラプラと見えることもありますが、限局的で弁の逸脱(支えを失った弁が心房側に大きく動く)を起こさないような場合には、閉鎖不全自体はおこりません。ただ、ある程度のレベルで腱索が断裂して、僧帽弁が逸脱し、逆流が生じていることが多いように思います。
 
 
さて、僧帽弁の構造について、次回お話をし、どの位置が異常を示すかでどのようなエコー所見になるかをお話ししたいと思います。