甲状腺ホルモンと循環器疾患の関係性はとても重要です。
AHAのガイドラインなどでも、拡張型心筋症をはじめとした心筋症や心房細動の初回診断、また、急性心不全の時には、甲状腺のホルモンを調べることを推奨しています。また、疾患ではありませんが、心房細動や心室性不整脈の時に使用されるアミオダロンは甲状腺にも作用してしまいますので、内服中の甲状腺ホルモンの異常というか不安定性は必発です。
さて、ちょうどCirculationに甲状腺と心疾患というテーマで特集がありましたので、この中で特に心不全にどのようにかかわるかというところをピックアップしてお話ししたいと思います。
(Anne R. Cappola, et al. Circulation. 2019;139:2892–2909. Thyroid and Cardiovascular Disease Research Agenda for Enhancing Knowledge, Prevention, and Treatment )
論文中の図3が非常にわかりやすいと思います。
甲状腺ホルモンは、T4も心筋細胞の中に入ったら、T3となって作用します。臨床的には、慢性的な心筋症・心不全への影響となる部分(活性酸素や線維化など)や、より直接的に収縮・弛緩に関わる部分(筋小胞体やミオシン)の両方に作用します。遺伝子の発現量の調整(関係する遺伝子からタンパクが作られるのを調整)するGenomic Effectとして作用します。甲状腺ホルモンは、線維化や活性酸素の産生を抑制し、心筋の拡張性と収縮性を上げる方向へと働きます。
また、遺伝子に作用する以外にも、血管の平滑筋の内皮のNO産生に関わっていたり、直接イオンチャンネルに作用して、血管の抵抗性を変化させたりすることと、直接的、または、血行動態的に交感神経やレニンアンギオテンシン系にも作用するようです。
このようなことを介して、心筋そのものに対する作用や血管系の調整を行っているので、ホルモンの作用の異常は心不全に関与します。
甲状腺ホルモンの異常には、亢進と低下があります。クリーゼという危機的な状況もあります。
甲状腺ホルモンの亢進の場合には、全体的な代謝の亢進で酸素需要が高まることや、心臓に関しても、頻脈で過収縮傾向となり、心筋そのものの酸素需要の亢進、過労ともいうべき状態になります。また、肺の血管のリモデリングに関与していて、肺高血圧に関連していたり、イオンチャンネルにも作用し、心房細動が起こりやすくなります。一部では交感神経やレニンアギオテンシン系の亢進を通じて、体液貯留傾向となることで左室拡張末期圧の上昇をきたすようになります。このようなことが慢性的に持続的に続くと、左室の収縮性の低下した状態、いわゆるHFrEF(Heart failure with reduced Ejection Fration)という状態になります。そのため、初回の拡張型心筋症をみたら、甲状腺機能を調べましょうということになっています。
また、甲状腺機能低下の状態では、弛緩障害が中心に出るとされています。いわゆる、HFpEF(Heart Failure with preserved Ejection Fration)の状態です。原因としては、心筋そのものの弛緩機能に関わる筋小胞体の機能低下によると思われます。甲状腺ホルモンが低下すると、心筋細胞内から筋小胞体にカルシウムを取り込むチャンネルであるSERCA2a(sarcoplasmic/endoplasmic reticulum calcium ATPase 2)の発現が減少することと、カルシウムの取り込みを抑制的に調整しているホスホランバン(phospholamban, PLN)の発現が増加することで、弛緩障害が起こるとされちます。ただ、機能的な障害が中心ですので、甲状腺ホルモン補充を行うことで、機能障害が改善されることが多いとされているようです。