心不全の急性期の薬剤治療については、最も重要なのが利尿薬です。
また、特に重症心不全などでは利尿薬を使いつつ、ECUMという選択肢を意識しておくのも重要です。
さて、ほとんどの心不全の増悪状態では、ある程度余分な水が体にたまっていることがほとんどです。一部の心不全は体内の水の分布が一過性に異常を起こすことでおこりますが、これだけで生じている急性心不全はかなりまれで、水が貯まった上で、分布の異常が合わさることのほうが多いです。
心不全の急性期の治療は、この余分な水を体外に排除することが目的になります。
急性心不全の中で、慢性心不全の急性増悪といわれるものを中心にお話ししていますので、ほとんどが、何らかの理由で余分な水が貯まっている状態です。
突然心機能が低下する急性心筋梗塞や劇症型心筋炎は、また別の項目でお話しします。これらでも、結局は治療中に水が貯まっていくので、利尿薬は重要な治療薬の一つになりますが。
では、利尿薬についてです。
大きくは、注射薬と内服薬にわけられて、内服薬では、ナトリウム利尿薬と水利尿薬に大別されると思います。
注射薬は、基本的にラシックスということになります。このラシックスをどう使うかが重要になります。
補助的な薬剤として、ソルダクトンとハンプがあります。ソルダクトンを使うなら、内服のアルダクトンを使えばいいかなと思いますが、使って悪いことはありません。ハンプはどちらでもいいですが、利尿を目的に投与するときは、僧帽弁の疾患などかなり特殊な状況に限られます。
では、ラシックスの使い方ですが、もちろん正解などはなく、あくまで、私はこうしていたというやり方をお話しするだけです。
急性心不全の人が入院したら、救急外来か、入院直後に、ラシックス 10 or 20mg 静注して、30-60分程度で反応をみて、その後のことを決めるという感じです。
「その後のこと」というのに、ラシックス静注の反復や、持続静注、トルバプタンを含む内服の追加などがあります。
一番最初の投与するラシックスの量を決めるのは、心機能というよりは、腎機能と性別、年齢(体格ともいえる)をみていたと思います。
あと、初回心不全入院とか、もともと利尿薬を飲んでいない人はラシックスがよく効きます。
腎機能が正常(eGFR>60)で、小さい女性なら、ラシックス10mg。腎機能が悪い(eGFR < 45)とか、通常の体格の男性であれば、20mgを投与していました。
その境界の45<eGFR<60とか、小さめの男性(COPDのおじいちゃん)とかであれば、溢水の強さに応じて、10mgにしたり、20mgにしたり、ケースバイケースでした。
悩んだら、呼吸状態をみて、呼吸が安定していれば、少ない量を投与するのでいいと思います。それで、評価する時間を短く30分とかにして、30分での反応をみて、追加投与するかどうかを決めるでいいと思います。
40mgの投与とかは、基本的に静注したことないです。反応が悪いからといって、20mg、 40mg、 60mgと漸増させて投与したこともないです。
量を増やすというよりは、評価する時間を短くして、どんどんと手段を変えるということをしていました。
手段としては、頻回に打つとか、持続投与にするとか、高張食塩(塩化ナトリウムだけでなく、塩化カリウムとかにも)に混ぜて投与したりしました。
ラシックス10-20mg投与して、2時間程度で、120ml程度の利尿がない場合には、何かします。
まず、原因を考えます。循環不全なのか、腎不全なのか、キンキンに交感神経が賦活化しているのか。とにかく何かないか考えます。
循環不全は、何度か述べていますので、尿・血液所見、身体所見やエコー所見などからあたりをつけてください。
また、腎不全の場合には、血液検査でクレアチニンが悪くなるには、1日程度はかかりますので、入院時腎機能ほぼ正常でも、腎不全の可能性もあります。血液だけでなく、尿検査などもあわせて推定しましょう。
交感神経を評価するのは、難しいですが、呼吸が速くて、頻脈であれば、交感神経亢進の疑いがあります。
呼吸や頻脈に関しては、少し経験的な話になってしまいますが、その時のレントゲンや心機能から想定されるよりも、呼吸数がはやいとか脈がはやいと判断される時には、それそのものを積極的に下げる治療を行うことで、それらが緩和され、利尿が得られることがあります。なんか無駄に息がはやい、脈がはやいと判断されるときです。
そういうときには、呼吸に関しては、陽圧換気や塩酸モルヒネ(2-4mgの静注)や、脈に関してはジギタリス、ランジオロールの投与が中心ですが、心房細動などの時にはワソラン®も有効です。
ひとまず、心不全の急性期に、ファーストタッチとしてのラシックスの静注投与を行い、その治療反応を評価してました。