心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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急性心不全の治療(17):血管拡張薬、特にNO供与体(ミオコール®、ニトロール®、ニコランジル®)

血管拡張薬の具体的な使用方法を述べていきたいと思います。
何度も繰り返しになりますが、血管拡張薬を、私は呼吸管理の一環と考えています。
心不全だから、血管拡張薬という風に素直にいかずに、すべての治療でそうですが、目の前にある心不全に対して、どうして血管拡張薬を使用するのかを考えてから使用していただきたいなと思っています。

①ミオコール
ニトログリセリン製剤は、アルコールの代謝にかかわるALDH2という酵素が関連して、NOが産生され、そのNOによって、血管の弛緩が生じます。また、長期連用(一般的に24時間以上)すると、ALDH2のSH残基がニトロシル化を起こして失活し、耐性を起こすとされています。また、ALDH2に異常があると(お酒に酔いやすい人)、パーオキシナイトライトが産生され、血管や心筋などの障害が起こることが示唆されています。使いやすいということはあるかと思いますが、24時間以上持続投与する場合には、他のニトロールやニコランジルを使用することをお勧めします。


使用方法としては、血圧がある程度以上高い場合(180mmHg程度)には、個人的にはミオコールスプレーを使いますが、ミオコールを希釈なしで、2ml程度静注して、その後、2ml-3ml/Hで持続静注し、その後、血圧をみつつ、2-4ml/Hずつ程度増量していくことになります。
減量の基準は、よくわかりませんが、呼吸管理の一環とみなしたときには、呼吸が落ち着いて(SpO2、呼吸数など)から下げる。循環・うっ血の治療だとしたら、利尿がついてきたタイミングだと思います。
強心薬は少しずつ減量するのにこしたことはないです(ドブタミンで1-2日で0.5-1γ)が、ミオコールは2-4ml/Hずつを1日に数回程度の頻度でどんどん減量していっても大抵大丈夫です。


強心薬は、心臓や循環がある程度依存してしまう傾向があるように思います、そのため、心臓と体があまり気づかない程度に慎重に減量する必要がありますが、うっ血は一旦改善すれば、血管拡張薬はあまり必要ない状態がほとんどですので、どんどん減量しても大丈夫です。

注意する副作用は、あまりありませんが、頭痛は比較的多いと思います。特に開始時というよりは増量時に多い印象があり、頭痛が出てきた場合には、減量する必要があります。

 


②ニトロール
硝酸イソソルビドという種類に含まれる薬剤になります。一硝酸イソソルビドであるアイトロールと、二硝酸イソソルビドであるニトロールやフランドルがあります。違いは、イソソルビドのヒドロキシル基が1つ硝酸化されているか、2こ硝酸化されているかの違いで、臨床でこの違いを意識することはありません。私は、心不全の治療では静注で使うならニコランジル or ニトロール。ほとんどの場合で、フランドルのテープ剤を貼ることで治療としていることがほとんどです。ミオコールなどと違い、耐性や活性酸素などの発生はないか、少ないと考えられています。


使用の方法は、おおむねミオコールと同じです。ニトロールの原液を2-4ml/H程度から開始して、高血圧をどうしても下げたいとき以外は、30-60分程度でゆっくりと増量していきます。心不全では、すぐに血圧を下げたい時には、ミオコールのスプレーか、静注でニトロールを2ml程度を使用しつつ、その間に、ミオコールやニトロールなどの持続静注薬を投与して、ミオコールで下げた血圧を維持するようなイメージになります。
また、ミオコールと違って、耐性は生じないため、比較的長期の連用が可能となります。ただ、血管拡張薬をだらだらと流すよりも、経口か経管が可能であれば、その間に経口内服薬であるACE阻害薬などを調整するほうが有用と考えられます。血管拡張薬を投与しているときには、血圧に余裕があるときがほとんどだと思いますので、ひとまずの呼吸管理が済んだら、利尿薬を積極的に使用して溢水の治療を行うことでうっ血の治療を行っていきます。


③ニコランジル
ニコランジルは、硝酸としてのNO供与体による作用と、Katpチェンネルを開口させることで血管平滑筋を弛緩させる効果があるため、ニトロ製剤だけでは拡張が困難な動脈の終末細動脈などの弛緩・拡張を促します。
平滑筋の一定の血管の径の維持(収縮・弛緩)には、カリウムチェンネルが非常に重要な働きをしています。カリウムは、心筋でも収縮の時間を決める重要な因子(いわゆる収縮の第2相を決める因子)であり、収縮弛緩を繰り返さない血管においてはトーヌス(緊張度)を調整するのに、カリウムの出入りを非常に重要な因子となります。


さて、ニコランジルは狭心症や冠動脈のカテーテル治療中に使用されるかと思いますが、心不全でも有用な薬剤です。
血管拡張薬ですので、使う状況としてはミオコールやニトロールと同じで、肺にうっ血があって、それによって呼吸困難などの症状が出いて、一時的に静脈系の血管を拡張してうっ血を軽減させたいときに使用することになります。
また、ニコランジルは、末梢の動脈も併せて拡張させるため、末梢血管が作る後負荷を軽減して、左室拡張末期圧を下げる、または状況によっては心拍出量を増やすという効果が期待されます。もちろん用量に依存しますが、過度または不要な血圧の低下も他のNO供与体と比較して起こりにくいとされており、確かにそうかなという実感もあります。
このため、私は静脈の注射が必要な心不全にはニコランジルを使うことが多かったです。ただし、病院によっては採用しているバイアルが小さいのしかないときには、医療側の問題で使用を躊躇されることもあるのが残念なところです(12mgバイアルしかない場合、4-8バイアルが必要になるため)。48㎎バイアルがあるときには便利です。

投与方法としては、2mg/Hくらいから開始します。ちょうど48mgバイアルがあれば、一本を1日で使う感じです。増量は、2mg/Hか4mg/Hずつ増量します。8mg/H程度で十分なことが多いように思います。
ちなみに、ニコランジルは、血管拡張薬の中では患者さんの予後をよくするという臨床結果のある薬剤であるというお話をしました。
販売されている国が少ないので、大きな臨床研究はありませんが、おおむね心不全の入院や心疾患の発症などを押さえていると思います。
投与方法は、急性期から持続静注を行って、その後経口内服を継続しているか、初めから経口内服を行っているかのどちらかなので、急性期の持続静注だけでの効果が証明されているわけではないので注意が必要です。
今後、急性期カルペリチド+慢性期NEP阻害薬を併用する臨床研究が出てくるかもしれませんし、すでにNEP阻害薬だけで有効性が証明されているので、出てこないかもしれませんが、急性期の持続静注だけでは長期に影響を与えるようなことはないのかもしれません。