何度かPICCという言葉を説明なく使いました。PICC(peripherally inserted central catheter)というのは、日本語では末梢静脈挿入型中心静脈カテーテルという風になります。
つまり、両腕の末梢静脈から細めのカテーテルを入れて、それを中心静脈かそれに近い鎖骨下静脈あたりまで進めていって留置します。この位置であれば、安定して薬剤や中心静脈栄養といわれる濃度の濃い薬液を投与することができます。
今はわかりませんが、1年前は、singleかdoubleといって、カテーテルの内腔に仕切りのないsingleか、しきりがあって、2つに分けれているdoubleかしかありませんでした。ただ、海外ではtripleといって3つに分かれているものも存在はしていましたので、日本でも使えなくはないと思います。また、比較的近位の上腕のあたりから穿刺するなら、少し細めのCV(central vein)カテーテルを代用することはできますので、どうしてもtripleルーメンが必要な時には、考慮してみてください。
さて、このPICCの優れているところは、やはり感染が少ないということにつきます。
もちろん、穿刺前に石鹸などできれいにして、十分にマキシマルな清潔操作で挿入することも必要ですし、管理も3方活栓をシュアプラグというものに変更したり、圧ラインを閉鎖式にしたり、さまざまな感染対策を十分にすることは必要です(これらで本当にカテーテル感染は減ったと思います)。
PICCは、腕に留置するため、きっと発汗なども少ないのかもしれませんし、よほど関節に近くない限り動く場所でもないので、安定しています。
留置部管理がしやすいのと、留置部と中心静脈に距離があるので、留置部が少し発赤したり感染が怪しいと思った段階ですぐに入れ替えれば、感染などもほとんどなく経過することが可能です。
非常に優れたカテーテルだと思います。
病棟の処置室などで留置されることも多いと思いますが、私はカテーテル室で留置していました。
循環器内科医でしたので、カテーテル室のハードルが低いというのは絶対的にありますが、カテーテル留置の際に、混合静脈血と簡易的な右心カテーテル検査を同時に行っていたからです。
すこしの工夫で、簡単な右心カテができてしまうのです。
では、正しいかどうかはわかりませんし、マネをしてくださいとも言いません。
臨床工学士の人と、こっそりと二人でやっていた検査です。
こつは、一番長いPICCカテーテルを選びます。また、親水性コートとされていない、曲げようと思えば曲げれるガイドワイヤーのものを選びます。
そして、いったん上大静脈くらいまでカテーテルをもっていって、そこで、いったんワイヤーを抜いて、思いっきりワイヤを曲げます。
くるくるくるとねずみ花火的な先端にします。
それを入れていくと、いい感じでカテーテルの先が上を向くので、そのまま肺動脈まで持っていきます。
そこで、圧ラインをつないぎます。
すると、肺動脈圧が測定できます。この時に、よほど重症の心不全で肺血管まで傷んでしまっているような心不全でなければ、肺動脈の拡張期圧と左室の拡張末期圧はほぼ同じ値になりますので、肺動脈圧ならびに左室拡張末期圧を測定できます。
そのまま、肺動脈で混合静脈血を測定することで、心拍出量も測定することができます(この辺りは、心臓カテーテル検査で述べます)。
さらに、どんどんとカテーテルを引いていくと、右室圧、右房圧を測定することができます。
そして、最後は上大動脈のいいところに先端を確認して、固定して終了します。
現在ほとんどのカテーテルは、液体充満型カテーテルといって、カテーテルの先端の液面にかかる圧がカテーテルの中の液体を押し上げる圧を計っています。そのため、直接コンデンサーで測る圧よりも不正確です。カテーテルが、長く細くなればなるほど、この値は不正確になります。特に、時間と圧の関係が不正確になり、時間当たりの圧変化率のデータは評価してはいけないとされています。
ただ、最高圧や最低圧に関しては、ある程度信用できる値になります。
もちろん、PICCはかなり細径のカテーテルですので、正確な値ではありませんが、参考程度にはなります。