心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

急性心不全の治療(5):低潅流による循環不全に強心薬の投与をためらってはいけない

循環不全と診断したら、強心薬を使用する必要があります。
 
一部の観察研究などのデータで、心不全の治療に強心薬を使うと、多変量解析でほかの因子を補正しても、予後が悪いので、できるだけ使用しないほうがいいという意見があります。
このような意見は基本的に無視でいいと思います。
 
まず、多変量解析で他の因子を補正できません。
急性心不全で、循環不全になっているようなときには、循環不全という因子が大きすぎて、他と強い相関関係をもちます。当たり前です。
循環不全になるだけで、肝障害もでますし、腎機能障害もでますし、尿量も減れば、食事の摂取量も格段に落ちます。このような状況で、統計ソフトをたたいて、補正したといっても、できているわけがないというのが現実です。
循環不全になれば、強心薬を使う。強心薬を使うと臨床医が判断するような循環不全の状態の各因子から、強心薬を使うということだけを独立させて評価することなど統計ソフトは想定していません。それぞれの相関が高すぎます。
 
また、前向きの臨床研究も循環不全に対する強心薬の是非を問うてはいません。
ミルリノンなどで臨床試験はありますが、基本的に強心薬を投与してもしなくても、どちらでもいい人というのが試験の前提になっています。
これは、心不全に対する薬の有効性の評価であって、強心薬の是非を問うているわけではありません。
つまり、どんな心不全の人でもこの薬を使うと心不全が早くよくなるよとか、急性期にこの薬を使うとある一定の心不全の人なら慢性期にいい影響が出るよということを証明するための評価試験であって、本当に強心薬が必要な循環不全の人に、強心薬を投与するかどうかを評価するための臨床試験はないですし、また、今後もおそらく倫理的な問題で実施できないと思います。
 
もちろん、強心薬に限らず体にいい薬なんてものはありません。薬なんてものは使わなくていいならそれに越したことはありません。
ある病気や病態があって、それに対して、治療しない場合どうなるか、治療をするなら、薬を飲んでおこる作用、副作用はどうなのか、それらすべてを考慮して、どうするかという判断と実行が治療です。
 
つまり、循環不全があるかどうかをしっかり評価できること。
これが重要で、その次に、診断できた循環不全に対して、強心薬の作用と副作用とを考慮して、投与するかどうかの判断をすることが、心不全の一番重要な治療判断になります。
 
もちろん、心臓の状態、全身状態、社会的背景などから、強心薬よりももっと強力な循環不全に対する治療を行う必要があるときも多々あります。
IABPやImpella、PCPSなどの通常の病院でもできる治療(impellaはいずれできると思います。値段との相談は必要ですが)と、VADなどの心臓外科や特殊な循環器内科医がないとできない治療、または、緊急心移植なども考慮しないといけません。
(注:緊急心移植という言葉はありません。しかし、マージナルドナーからの心移植といって、何らかの理由で多少移植される心臓が不適切でも心移植にふみきらないといけない状態の患者さんに対しては、通常よりも早いタイミングで心移植が行われる時もあります)
 
これらの基本となる判断は、すべての心不全を診療する人に判断することが求められます。
もちろん移植だ、補助循環かという各論ではなく、強心薬をいくかどうか、そして、強心薬だけでいけるかどうかということです。
より高次の医療機関に送るかどうかも常に考えておかねばなりません。
 
 
また、話は変わりますが、緩和医療における強心薬も重要です。緩和だから強心薬なんてという人がいますが、違います。低灌流による倦怠感には強心薬を使用します。もちろん、フェンタニルや、必要に応じてプレセデックスなども使用します。
緩和ステージの人で、強心薬を使ったからといって、残念ながらそれほど寿命は変わりません。時として、催不整脈性から予後を短くすることもあります。
その治療が寿命を短くしたとしても長くしたとしても、今ある症状を最大限緩和するのが緩和医療です。
循環不全のある終末期心不全の患者さんに対しては強心薬も緩和医療の一つの選択肢であることは、忘れてはいけません。
緩和ステージでしてはいかない治療というは、患者さんの苦痛をしいてまで治療を行ってはならないということです。ラーメンを食べたいなら食べてもらえばいいですし、不整脈がでまくっていても、モニターの届かない庭で桜をみたければ、みてもらえばいいのです。強心薬で楽になるならすればいい、鎮静・人工呼吸管理(非侵襲的なもの)で楽になるならそうすればいいのです。
緩和の心不全は、ある意味これらをしたからといって、それほど延命できません。
 
すこし、話がそれましたが、次回具体的な強心薬の使用方法について述べていきます。