心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

心不全について私が知る・思うすべてのこと

急性心不全の治療(2):VTI 心エコーによる心拍出量の推定

低潅流の所見は、手を触って、指で爪を押さえて毛細血管充満時間(CRT, capillary refilling time)を計ってみる、そうするとすぐに評価が可能です。
しかし、主観的な要素の強い検査ですし、これが陽性だからといって、なかなかすぐに強心薬などの治療に踏み切るのは難しいです。
 
また、経過をみていくうえで、症状は非常に重要で、低潅流に伴う症状があれば、治療もその症状が良くなるかどうかを指標にできます。しかし、症状は、原因が特定されるまで、指標にできないという最大の問題があります。
心不全の人の倦怠感が、低潅流なのか、それとも他の原因なのかを明確にするまで、治療の指標としては使えません。
その原因の特定には、客観的な指標の包括的な評価が必要です。
 
 
これらを踏まえて、客観的な数値を評価したいというときには、低灌流の指標として、尿検査と血液検査が有効です。
さらに、低還流そのものではないですが、低心拍を、時間的に早く結果がわかるの指標が、心エコーでの心拍出量の推定です。
もちろん、心エコーで心拍出量を推定したからといって、低潅流があるかどうかはわかりません。心拍出量の絶対値によって低潅流になるわけではありません。
低灌流はあくまで、その人の体が求めている血液の流量を心臓が拍出できなくなった時に起こるからです。
ただ、それでもやはり、心拍出量を推定しておくことは、低潅流を評価するうえで、重要だと思います。
 
エコーでの心拍出量の推定は、弁膜症の連続の式という狭窄性病変の狭窄の有効弁口面積を求めるのにしようしたり、他には、先天性心疾患である心室中隔欠損などの短絡量を推定することにも使用します。
 
左室の流出路から左室の心拍出量の求め方です。
傍胸骨左室長軸像で、左室流出路を描出し、そこをズームします。できるだけズームした状態で、収縮期の左室流出路径を測定します。
この時に、カラードプラーもみておいて、左室流出路に狭窄や加速血流がないことを確認します。もし、はっきりとした加速血流があった場合には左室流出路での心拍出量の推定は基本的にはできないということになります。
次に、心尖部の5腔像と3腔像で、左室の流出路に、まずカラードプラーを当てます。通常の初期設定にすると、左室抽出路の青い血流が見えると思います。もし、左室の中隔が流出路に少し張り出していて、そこに加速血流があった場合には、その部位を避けて、できるだけ均質なカラードプラーの位置にパルスドプラーを当てます。
 
パルスドプラーは、時間を横軸、速度を縦軸視した図になりますので、ここで収縮期の左室流出路の血流の時間速度積分値(VTI, velocity time integral)を測定します。通常はきれいな放物線になるはずです。
左室流出路のVTIと流出路の断面積をかけることで、1回左室流出路が測定できます。
(断面積は、きれいに描出できれば直接断面を測定しても構いませんし、特に3Dエコーでは断面を長軸をみながら選べるので、正確に測定できると思います)
 
また、入院後の初回評価は、右室流出路のVTIも測定しましょう。右室流出路は、傍胸骨短軸で、大動脈弁が正面視できる高さあたりで測定できます。
右室のほうが、左室よりも加速血流になっていたりしないので、その点では有用ですが、右室流出路径は、ほとんど肺動脈弁レベルでの計測でいいと思いますが、右心の血行動態によっては、結構拡大していたりすることもあるので、右室流出路径の測定は注意が必要です。
 
さて、左室の流出路径 2cmの程度で、人によって変化がないこともあり、VTIの数値で直接に評価することが多いです。
ざっくりとした指標ですが、有用です。
 
以下に述べるのは、個人的な見解です。
ざっくりと分けるバージョンと、細かめに分けるバージョンで2つのバージョンで行きます。
また、あくまで1回心拍出の評価ですので、心拍数を考慮する必要があります。
通常の心不全であれば、急性期で、洞調律の場合は、心拍数は80-110程度が多いかと思います。
本人のしんどさにもよりますが、しんどがっている急性心不全なのに、60前後であれば、やはり脈がおかしいと考える必要があります。
 
A) ざっくりと分けますと、
VTI 
< 12cm 低心拍出量が考えられます。低灌流が発症している可能性が高いので、他の臨床所見と合わせて慎重な評価が必要です。低還流、循環不全の所見があれば、強心薬を使用しましょう。血管拡張薬は使用しないほうが安全です。
 
12-16cm 低心拍出の可能性はおそらくないが、特に12-14辺りはほかの所見と合わせての評価を慎重に行い、必要があれば強心薬を使用しましょう。血管拡張薬の使用は慎重に行いましょう。
 
> 16cm 低心拍出の可能性はないと判断される。
 
 
B) 細かくわけます。
< 6cm 低心拍出量で、超重症です。もともとこの程度で生活している低心拍出の方はいなくはありませんが、相当珍しいです。強心薬の使用が勧められるどころか、一時的な機械的なサポートの必要性も考慮されます。安定した後でも、強心薬が長期間必要なことが多いです。原因・年齢によって、心臓移植登録の準備が必要です。
 
6-8cm 低心拍出量で、かなり重症です。もちろん、安定しているときでもこの程度の低心拍出量の方は一定数います。他の身体所見とあわせてですが、強心薬の使用を積極的に考えましょう。また、血管拡張薬は使用しないほうが安全です。原因・年齢によっては、心臓移植登録の具体的な準備が必要です。
 
8-10cm  それなりに重症な心不全で、低心拍出ではある。心拍数なども考慮に入れるが、低潅流の可能性はある。循環不全の指標を慎重に評価し、静注強心薬か、場合によっては経口強心薬の一時的な併用を積極的に考慮する。血管拡張薬は使用しなほうがいい。
 
10-12cm 通常よりはやや重症の心不全か。低心拍出の可能性があり、低潅流を起こしている可能性はなくはない。循環不全の指標を慎重に評価し、静注の強心薬が必要な可能性は低いが、経口強心薬の一時的な併用は考慮される。やはり血管拡張薬は使用しないほうがいい
 
12-14cm 低心拍出ではない可能性が高いが、境界領域である可能性は考慮しながら治療にあたる必要がある。経時的な身体所見の評価が必要。
 
14-16cm 低心拍出である可能性はほぼない。
 
> 16cm  絶対に大丈夫とはもちろんいわないが、低心拍出ではない。利尿薬を中心に積極的な治療が行える。ただ、あまりに高い場合には高心拍出性心不全(貧血やシャント、脚気など)を考慮する必要がある。
 
というようになります。
あくまで、目安で、心拍数にもよりますし、2㎝程度であれば、何回か測れば、状態の変化なしにかわる可能性もありますが、やはり、VTI 8cmと10cmと12cmの心不全は、血行動態的に違う心不全だと思います。