心不全を中心とした循環器疾患に関する単なるブログ

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TR(4):三尖弁閉鎖不全症(原発性)の原因と、それに関連する諸々

三尖弁閉鎖不全(TR)の原因の多くは、心不全に伴う機能性不全がほとんどで、弁自体の異常によるもの、いわゆる原発性三尖弁閉鎖不全症は少数派ですが、経験することはあると思います。
AHAのガイドラインなどを参考に原発性の原因を列記します。

原発性​​
・リウマチ性変化​​
・逸脱、腱索断裂 (これらの原因として、特発性の他に、感染性心膜炎、カルチノイド腫瘍、放射線治療などがある)​​
・右室ペースメーカやICDのリードによる弁の閉鎖障害​​
・心臓移植後の頻回の右室生検に伴う腱索断裂など​​
・フレイルした弁や弁の位置の異常(ebstein奇形など)​​
​​
TRのほとんどは機能性で、心不全にともなうものであり、原発性自体を見ることは少ないと思いますが、その中で比較的みるのは、一般病院ではペースメーカーやICDのリードによる弁の閉鎖障害が一番多いのではないかと思います。次は、感染性心内膜炎で、他の原因はかなり稀ではないでしょうか。
また、移植施設では、心移植後の頻回の右室生検に伴う三尖弁の微小なレベルからそれなりのレベルでの腱索の断裂などによるTRは頻出します。​

ペースメーカーやICD留置後にリードによる三尖弁閉鎖不全は時折看過できない時がありますが、基本的に一度固定されて、ある程度時間がたってしまったリードの位置を変更するのは、至難の業です(上大静脈と癒着していることが多いため)。​
本気で位置を動かすなら、リード抜去が可能な施設で、リード抜去のシステムを用意して、上大静脈との癒着をはがして動かす必要があります。​
しかし、心エコーでみながらTRが起きないように、三尖弁の通過する位置を変えるとTRはなくなるかもしれませんが、これに関する基準などは一切ありません。​
こういう処置が行われたことを聞いたことはありませんが、植え込み後、早期であれば、一度閉じた傷を開くということを上回るほどにTRが急に激増している場合には、考慮してもいいと思います。​
ペースメーカー植え込み後に、心エコーとかしないと思いますが、念のために、心嚢液の有無の評価とTRの評価はしてもいいのかもしれません。
特に、ペースメーカリズムになった時に、右室刺激で急性に心機能が低下している可能性はかなり少ないとは思いますが、なくはないかもしれませんし。

これに関して、ある程度時間がたったペースメーカー植え込み後のTRに関しては、リードの問題だけではなく、ペースメーカ刺激、つまり右室刺激による左脚ブロック波形のための心機能低下による機能性であるかどうかの評価も必要です。
時間がたって、TRが増えてきたのは、リードのせいではなく、ペースメーカリズムで、心機能低下している可能性がありますので、これをしっかり評価しましょう。​
ペースメーカを植え込んで、長期経った後の心機能低下を見たときには、三尖弁輪の大きさなどを測定し、原発性(=リード留置による)か機能性かなどの大まかな鑑別をしていきます。それとともに、心機能低下自体の鑑別も必要です。心機能低下の除外診断に関して、特に房室ブロックでペースメーカを入れている場合には、かならず、サルコイドーシスの鑑別は必要です。ブロック+心機能低下は、サルコイドーシスの可能性大です。​
それとともに両心室同期ペーシングの導入も考慮しましょう。

サルコイドーシスであったと分かった時に、ペースメーカ植え込み後のペースメーカを両室同期に変更するタイミングですが、ステロイドを投与すると心機能が良くなることもありますが、炎症の程度によってよくならないことも十分ありますし、多少良くなる程度が多いような気がします(炎症の強さと持続時間、診断時期の違いだと思います)​。
そのため、両室ペーシングが必要と判断されるような低心機能(LVEF < 35%)の時には、まずペースメーカを両室ペーシングに入れ替えて、それからステロイド投与を行うのがいいと思います。
一般的に、ステロイドが感染の可能性のある手術を行える用量になるのに、1か月から2か月はかかりますし、ステロイド自体の中止は、早くても1年とかというレベルになります。そのため、微妙なLVEFであれば、ステロイドによる左心機能の改善を待ってもいいですが、低心機能の場合には、感染などのことも考慮して、ステロイド投与前に植え込みするのがいいと思います。
コストの問題ですが、LVEF<35%のような低心機能の場合に、躊躇する必要はないと思います。ここで、心機能が改善するかどうかは、5年生存率に大きな違いをもたらすと考えられます。ICD機能を入れなければ、そこまで両室ペーシングだけでは高いものでもありませんし。